こいつ、顔だけ。(お金がない!)
こうつきみあ(光月海愛)
第1話
「今、ヤバいのと目が合ったんだけど……」
流し下の引き出しを開けて、直ぐに閉めた私の声は震えていた。
居間のコタツでTVを観る彼氏、アタルは「Gかよ?」と呑気に言ったが、そんなもんじゃない。
「ネズミよ!」
生まれて初めて見た。
引き出しから鍋を取り出すつもりだったのに、恐怖で動けなかった。
そんな私の横で室内犬のシバが吠える。
「どうりで最近、シバが夜中にここらで動き回ってるな、と思ったのよね」
「じゃあシバが仕留めてくれんだろ?」
無職でずっと昼寝してる癖に、夕方でも欠伸をするアタル。
「猫じゃないっつーの。 それに鼠は病気持ってるんだから! シバが感染したらどうするのよ」
私の訴えも響かず、寝転がってゲームを始めやがった。
「うっせぇな、鼠なんかハムスターだと思えば可愛いもんだろ」
「だから病気! ペストも鼠が広めたんだからね!」
「じゃあ薬でも撒いとけばいいんじゃね?」
「殺鼠剤はシバが危ないでしょ?」
さっきからシバシバ言ってるが、この柴犬は別に可愛がってる愛犬ではない。
元々、私は動物が苦手なのだ。
じゃあ、同棲中のアタルの犬かと言えばそれも違う。
今、私達が借りているボロ一軒家の家主の犬だ。
家賃一万円。
破格なのには訳がある。
家主はアタルの親戚で、転勤族。
先祖から引き受けた築90年の家を、シバの世話を条件に貧乏な彼へ貸出している。
だから、雨漏りしたって白蟻や鼠が出たって自分達で何とかするしかないのだが。
我が家にはお金がない。
プー太郎のアタルと安月給の私。
手取り収入十五万円。
生活費は家賃を入れて七万円、私の唯一の肉親・母の入院費が八万円で、貯蓄は全く出来ない現状。
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