神に捨てられた僕は、女神に堕とされる

タミフル・カナ

第1話 突然、女神が微笑んだ

 放課後、すばるの部屋。机の上には散らかった漫画とゲームのケースが山積みになっている。


 そんな中で、昴は椅子に座り、目の前に立つ一人の少女に目を奪われていた。

 金色のロングヘア、白いドレス、背中には小さな羽。茉莉亜まりあが天使のコスプレをしているその姿は、まるで本物の天使のようだった。


「どう、似合うでしょ?」


 茉莉亜は軽く手を広げ、柔らかな笑顔を見せる。目を輝かせながらも、どこか照れくさそうな表情が彼女の魅力をさらに引き立てていた。


 昴は、その美しさに圧倒され、思わず言葉を詰まらせる。


「す、すごく似合ってる……」


 その一言が出るのが精一杯で、昴は顔を赤くしながら視線を逸らした。


「ふふ、素直でよろしい。」


 茉莉亜は楽しげに笑いながら、再び軽くスカートをひらひらとさせる。


「でも、本当にここまで頑張ったわね、昴くん。正直、ちょっと驚いてる。」


 昴は茉莉亜のその言葉に少し驚きながらも、苦笑いを浮かべて言った。


「約束だからな。やるって決めた以上、途中で投げ出すわけにはいかないし。」


 何も考えずに言った言葉だが、実は心の中でかなり迷っていたことも事実だ。これまで、自分を変えることに対して自信を持てずにいたから、茉莉亜の言葉にはどうしても乗れなかった。しかし、やり遂げると決めた以上、途中で諦めるわけにはいかない。


「ふふ、頑張り屋さんね。」


 茉莉亜がそのまま、少し神妙な顔で昴を見つめる。


「でも、昴くんがここまで頑張ったからこそ、私はこんなものを披露するの。」


 その言葉に昴は、またもや心が急に跳ねるような感覚を覚えた。


「茉莉亜……本当に、そんなことをしてくれるのか?」


「もちろん。」


 茉莉亜がそう言うと、さらに近づいてきて、昴の顔を覗き込んだ。彼女の顔が近すぎて、昴は目を逸らしそうになった。


「これが私からのご褒美。」


 茉莉亜の笑顔は、まるで本当に天使が微笑んでいるようだった。

 

 

 昴は、これまでの茉莉亜との関わりを思い返していた。

 すべてはあの言葉から始まった。


「昴くん、自分を変えたいとか思わないの?」


 その言葉を聞いたとき、昴は一瞬何も言えなかった。

 それまで、茉莉亜とは普通に友達関係だったし、仲が悪いわけではなかったが、こんなことを言われるとは思ってもいなかった。


「自分を変える?」


 昴は口をつぐみ、考え込んでしまった。自分を変えるって一体どういうことだろう? どうして変わらなくてはいけないのかもわからなかった。だが、その疑問を抱えたまま、昴はその後茉莉亜に誘われるまま、話を続けることになった。


「そうよ、いつも自信なさげにしてるけど、昴くんだって本気を出せば変われるんじゃない?」


 その言葉が昴の胸に刺さった。自信がないのは自分でも感じていたし、何かを変えたいと思っていた。でも、どうすればいいのかがわからない。


「もし……本当に変われたら、どうなるんだ?」


 昴が問いかけると、茉莉亜はクスっと笑い、どこか楽しそうな顔をした。


「じゃあ、その時は特別に……私が昴くんのために何かしてあげる。」


 その言葉に、昴は思わず反応してしまった。


「何かって、例えば?」


「そうね、例えば……私のコスプレを見たいとか思わない?」


 その提案に、昴はあまりにも唐突すぎて驚いた。コスプレ? それがどうして「自分を変える」ことと関係があるのか全くわからない。


「じゃあ、それを約束してくれるなら、俺、頑張るよ。」


 昴はつい口にしてしまった。その時、彼は茉莉亜の提案を本気で受け入れようとしていた自分に気づいた。


「ふふ、約束よ。」


 茉莉亜はいたずらっぽく微笑み、その言葉を重ねる。


「じゃあ、私は昴くんが頑張れるか見届けるわね。」


 その後、昴は茉莉亜からの約束を胸に、少しずつ努力を始めることに決めた。



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