追放されたネクロマンサー、勇者パーティーを解体する。 ~ごめんなさい、お師匠の言いつけは守れませんでした!~

手嶋柊。/nanigashira

第1部

1.勇者殺しと墓荒らし

第1話 追放と解体

「パルビス、お前を勇者パーティーから追放する!」


 首都のはずれの教会へ呼び出されると、勇者アートンから直々にご指名だ。

 パルビス――塵の名を持つ少年は、項垂れた。


「……これでも僕は曲がりなりに、君たちの仲間をやってきたつもりだ」

「仲間だ?

 そんな言葉に胡座をかいて、鍛錬を怠ってきたのが貴様だろうが!

 死霊アンデッドを使役するしか能のない荷物持ちのくせに、ビーストテイマーのほうがよほど使い勝手がいい!

 先代は死んだのに、いつまでものうのうと居座っている」

「それは――」


 パルビスは口ごもった。アートンは語り続ける。


「ここにいる誰も、お前を仲間だなんて思っちゃいないんだよ!?

 先代勇者シュットンを、お前が殺したあの時からなぁ!」


 パルビスは、彼の周囲の三人の少女たちを見渡す。

 みな顔はいいが、アートンの名で集まったなら、俺のことは都合のいい雑用係としか考えていない連中だ。なまじ実力者が多いので厄介さに拍車がかかる。

 帝国の勇者パーティーは、人間族最強とされていた。


 彼は引き倒され、首に刃を宛てがわれる。


「賎しい死体漁りの分際で、アートン様の周りをいつまでうろちょろと!

 恥を知れッ!」


 彼を引き倒した黒髪和装の女剣士にして格闘家、ヘストラは紅葉流抜刀術もみじりゅうばっとうじゅつの使い手で、敏捷性はパーティーでも随一をほこるサブアタッカーだ。


「ヘストラ、僕は」

「言い訳など見苦しいと言っている!

 シュットン様はお優しい方だった、それをお前などのために散らしていい方ではなかったのに!

 死体の陰に隠れてこそこそと死なないようにしているのが、関の山なくせをして」

「ホントよねぇ、うわこっち見んなよ気持ち悪っ」


 回復役魔法師のユリィは手を出してこない。後ろで控えて口汚く罵るだけなツインテールのぶりっ子。顔はいい女だが、それだけだ。ヘストラが側室とすれば、ユリィが正妻とか第一夫人みたいなあたりだろう。

 パーティーのなかで僕にだけは回復魔法を使ってくれたことがない。


 タンカー兼シールダーのタルパは、骨太でアートンの趣味からはいささか外れるが、文字通り優秀な盾役ではあった。それが、パルビスの顎が砕かれんばかりの勢いで蹴りこんだ。


「――!?」


 顎がおかしい方向へ外れて、神経の剥離する痛みでパルビスはその場へ蹲る。

 そんな彼へ顔を寄せて、タルパは凄む。


「ありえんだろう、モヤシの死体漁りが仲間だなんて!」

「アートン様ぁ、こんな魔導師未満のクズ、どうして殺せないんですかぁ?」


(こいつら……本気で俺を、追い出す気か)


「私らはかりにも帝国の勇者パーティーだぞ?

 パーティー内で殺しが起きれば、国家の威信に関わる……それが死体漁りでもな」

「――」


 パルビスはのたうってから、無理やりに顎を矯正してすぐに起き上がる。

 その瞳に宿るのは怒り、ではなく哀しみだということを、パーティーのみなは知らない。


「武装や所持品はすべて置いていけ。それらはすべて勇者パーティーの資産だ、持ち逃げれば横領のかどで、表にいる帝国の憲兵がおまえをしょっぴくことになっている」

「――、ふ」


 パルビスは息を静かに吐く。

 顎は熱いままだが、死霊術の応用で痛覚を遮断して、なんとか声を出す。


「なんで帝国の憲兵が教会の表にいる?

 最初から、口実なんてどうとでもできたんだろう」


 横領でなくとも、僕に適当な罪を擦り付けるつもりだ。

 アートンは下卑た笑いを浮かべる。


「死霊術師というだけで存在から罪深いのに、今更お前は建前が大事かよ。

 もっともお前の人生はこれで終わるんだ、戦場で亜人と通じた罪でな!」


 要はスパイ罪のでっち上げであったが、当然ながらパルビスが納得するはずもない。


「……現状身に覚えがないことまで、擦り付けられる謂れはないな。

 アートンこそさ、お師匠のことだって、そんなに好きじゃなかったじゃんか」

「馴れ馴れしい言葉を吐くな!」


 さっきからヘストラが口喧しい。

 もっとも無言でポキポキ指を鳴らしているタルパも大概で、こっちの圧のが下手なヒステリックより怖いまである。

 パルビスは、みなの声を手で制し、それでも最後に言わなければならないことがあった。


「本当のところを教えてやるよ。お師匠――シュットンが、お前たちに遺した魔法のことだ」

「あ?」


 一同、固まっている。ここでシュットンの名を俺から出たことに、戸惑っているだけではない。あの人の魔法、その最後の名残が、終わろうとしているのだ。

 アートンは異変に気づく。


「なんだ、これ……砂?」「なんなのよ!?」「貴様の仕業か、死霊使い!」


 アートン、ユリィ、ヘストラが三者三様な反応を見せるなか、タンカーのタルパがまたパルビスの胸倉を掴んで締めあげようとする。


「この砂はなんだ、この身体はっ!

 私たちになにをした!?」

「僕は、なにもしていない。話は最後まで聴けよ……ってのも無理か。

 お前たちは僕がお師匠を殺したと言ったけどな――自分たちの無力が招いたことだなんて、一度として省みようとしなかった」

「なにを言っている!」

「いや責任の擦り付けあいがしたいんじゃなくてさ。

 あの戦いで、帝国の勇者パーティーは壊滅したんだ」

「ふざけるな!?」

「お前たちはお師匠が光砂こうさ魔法で再現した、高次光人形ハイライトオートマタなんだよ。これは死霊術師の魂寄せや、アンデッド生成に極めて近しい技術でできている。

 だけれどついに限界が来てしまった、だから解体する――帝国は僕たちがいなくとも、また新しい勇者パーティーを擁立し、魔族討伐のシンボルとするだろう」


 抗議を終える前に、砂人形たちみなが、その場で崩れ落ちていく。本当に、最期はあっけなかった。


「……そして僕は、勇者を消した罪で帝国を追われるらしいな」


 かりにアートンらが生きていたところで、同じ顛末だったろうけれど、パルビスは言葉だけを手向けることにした。


「さようなら十八番目アートン、勇者パーティーのみんな。

 残念だけどきみらの魂まで、僕は守ってやれなかった」

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