大御所作家に「あとがきは面白かった」と言われた俺の末路
@kaisyain36
大御所作家に「あとがきは面白かった」と言われた俺の末路
これはデビューする少し前のことである。
当時の私は新人賞を獲ったものの改稿に次ぐ改稿で本当に本が出せるのかと半信半疑の状態だった。
長い月日を経て、ようやく努力が実を結び「作家未満」のふわふわした状態から脱却できると大変喜んだ記憶がある。
「じゃあ、あとがきや著者プロフをお願いします」
「了解しました!」
改稿の重圧から解放された身としては「自由に書ける千文字」は全く苦では無い、「ボケ倒してしまえ」とネタに走りまくったあとがきを一気に書き上げ提出した。
そのあとがきだが、偶然にも大御所作家さんが目にする機会があったらしい。
担当編集さん曰く、大御所作家さんは私の作品に少し興味があったらしく「どんな作品なんですか?」と聞いてきたらしい。
その時、担当さんは私のあとがきを手にしていたらしく「こんな作風です」と浮かれてボケ倒したあとがきを渡したとのこと。
そして、私が世に作品を出し初めての受賞パーティーで大御所作家さんは会うや否や開口一番こう言った。
「いやぁ、個人的に本文よりあとがきの方が面白かったです!」
多分大御所作家さんもネタで言ったのだろう。本当なら「ちょっと先生! ヒドいっす!」みたいな若手芸人張りのリアクションを期待していたに違いない。
だが、この一言に私は――
「マジすか!? うれしー!」
シンプルにめちゃくちゃ喜んだ。
単純に大好きな作家さんから「面白い」と一言もらえたのが嬉しすぎて嬉しすぎてたまらなかったのだ。
「本文より」の部分はコンマ数秒ですでに忘却の彼方。
思っていたリアクションと違い大御所作家さんはちょっと驚いていた……ような気がする。
細かい苦言は吹っ飛び、憧れの作家さんに褒められたという事実だけが記憶に残る「ポジティブなキングクリムゾン」が発動したというわけだ。
改稿ばかりで自信を無くしていた私が、大御所作家さんの「面白い」の一言に救われたのは事実。その後の作家生活における自信と原動力になったことはいうまでもない。
だが冷静に考えれば、もっとその時真摯に受け止めていたら今の体たらくは無かったんじゃないかと。当時の浮かれた自分を小一時間問い詰めたくなる。
そう……私はその日から本文よりあとがきに注力するようになったのは否めない。
大御所に褒められたという自信はガソリンとなり体中を巡りだす。正直、本文より筆が乗っていた。
あとがきだけで十万字……文庫一冊分いくんじゃないかというくらいの勢い。おかげで何冊分かはあとがきに困らずにいた……小説本文は稚拙ゆえ困りに困ったが。
そんなわけで本文よりあとがきに自信を持ち、楽しくなった私は明後日の方向に努力するようになる。
具体的にはラノベ作家なのにラノベそっちのけでエッセイなどを読み漁ったり、そっち方面ばかり研究し始めた。
そしてあとがきだけに留まらず著者プロフの方も「ボケしろ(ボケる機会、または余地のこと)」と認識し、四、五行のスペースでどうボケるか一昼夜考える始末であった。
そんな私の成果(末路とも言う)は旧ツイッターや読メ、アマゾンレビューなどで如実に現れることになる。
以下、その一例をちょっとぼかして紹介しよう。
「著者プロフが面白かったので購入。絶対面白いと思ったけど本文はいまいちだった」
「あとがきが面白かったので購入しました。本文は普通だったけれども――」
「あとがき面白かったけど本文つまらなかった、サヨナラ」
ありがたい事にあとがきや著者プロフを読んで手に取ってくれた方が想像以上に居たらしく、まぁまぁ売上に貢献しているようだ。
ただ、本文はいまいちという口にする方が多いこと多いこと……私の努力は文字通り「本末転倒」なのは否めない事実である。
最後に一言、言わせて欲しい「さすが大御所様、見る目ある」……と。
あらすじの方が面白い作家……その慧眼に大御所作家たる所以を垣間見て、ただただ敬服する次第です。
大御所作家に「あとがきは面白かった」と言われた俺の末路 @kaisyain36
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます