第13話 若返り学園長、初日に絡まれる
そして時は流れ合格発表の日が訪れる。
「あ、あったよニコ! 合格だ!」
サラと共に受験番号を確認するニコライ、そこに自分の番号があったことに彼は訝しげに見やっていた。
(正直、僕が合格するか否かは半々だったんだがな)
挑発的な態度で試験を受けた平民である自分を「貴族主義の驚異」と感じ落としてもおかしくないと思っていたニコライ。
だがそんな疑問はすぐ生徒たちの歓声に上書きされる。
「お、やった」「私も受かった!」「やったやった」
この喜びの声が聞けただけでオーブを壊した甲斐があったとニコライは満面の笑みを浮かべた。
「よかった、よかった」
だが、その喜びに水を差すかのように、一人の男が不遜な態度で声をかけてきた。
「どうやらお前も受かったようだな。ふふん、面白くなってきた」
身の丈は他の受験生よりも頭一つ抜けておりニコライを見下す形で見やっている。
強気を前面に押し出した無骨な顔つき。鍛えているのか筋肉の量は他の受験生の倍くらいはある。
面識のない男だが身につけている装飾品で「かろうじて」貴族であると言うことがうかがえた。
「かろうじて」の理由はその着崩した身なりだ。胸元を大きく広げ腕まくりなんかしているその風体は貴族より荒くれ者の方がしっくりくる。ぶっちゃけ魔法なんて唱えそうにも無い。
「あなたは?」
「アマンダラ家の長男、アモスだ」
「アマンダラ……」
そこでニコライは先日喫茶店で襲撃してきた女子を思い出した。
(どうやら、あの二年生主席の弟のようだな。血気盛んというか、自信過剰なところはさすが姉弟といったところか)
アモスは不敵な笑みを携えニコライに肉薄した。
「姉はアマリリス=アマンダラ、二年の首席だ。我が家の名誉にかけて俺もこの代の首席を目指すことにした」
「はぁ」
「ニコとかいったよな、お前が受かってくれて嬉しいよ。実力者を押さえてこそ主席卒業の肩書に意味があるからな」
「ほう、なるほど」
貴族の傲慢さというよりも腕に覚えのある若者といった雰囲気に好感を覚えたニコライはにっこり笑っていた。
「……何笑ってやがるんだ」
「いえ、君のような人、嫌いじゃないですよ」
本心で褒めるニコライ。
しかし、それを挑発と取ったのかアモスは腰に携えた斧を構える。
「今、この場で分からせてやろうか?」
ピン……と合格発表の場に張り詰めた空気が漂った。
片眉を上げるニコライ。
アモスは言葉を続ける。
「てめぇ受験の時、颯爽と去って行きやがっただろ。そういうスカした所も気にくわねぇんだよ」
「そう言われましても……」
「調子乗ってんじゃねぇぞ。俺だって壊したぜ、魔力測定オーブ」
(なるほど、自分がいなくなった後、彼も壊したのか……もっとも普通の測定オーブの方だろうが、それでもさすがだ)
ニコライは将来有望な若者につい顔が綻んでしまう。
(ま、彼の実力に加え、測定オーブも老朽化していたのだろう……バルザック君は備品にお金をかけないし)
「何黙ってんだよ、構えろやニコ」
一触即発のムード。
彼らの回りにはいつの間にか黒山の人だかりが出来ていた。
困った顔のニコライに対し、サラが心配そうに声をかける。
「ニコ……」
「サラさん、大丈夫ですよ、僕はこんな晴れの日に――」
「骨の一、二本で済ませてあげなさい、このあとウチの店で祝賀会やるんだから」
「そういう心配!?」
やりすぎて殺さないでねという方面の心配に素っ頓狂な声を上げるニコライ。
このやりとりにアモスの怒りは頂点に達した。
「なめんな! このスカし野郎――」
その時だった。
「待ちなさーい!!!!」
黒山の人だかりを掻き分け、現れたのは――
「姉貴!?」
アモスの姉、アマリリスだった。アモスは構えた斧を納めると胸に手を当て一礼した。
「姉貴、見ててくれ。アマンダラ家の名誉に賭けて一年主席の座を――」
「アホかこの愚弟!」
ゴキャ!
「グボはぁ!?」
「「「!?」」」
骨の軋む嫌な音。
いきなり殴られ混乱するアモス。
もちろんニコライ以下、他の面々も何が起きたのか困惑していた。
「な、なぜ……」
※次回は12/26 12:00更新予定です
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