BLUE in the ガールズバンド

第15話 名探偵咲ちゃん その3

「つまり…蘭子さんは大阪の梅田からまちがって阪神電車に乗って、乗り過ごして『知らない駅』で降りたってこと？」

「そう。あり得りることだと思うんだよね」

私は驚いた。

阪神電車の存在を知らなかったから、その可能性に思い至らなかった。

「いや…でも…」

私は首を傾げる。

「蘭子さんが駅を間違えるかな？ だって普段からよく阪急使ってるんだし…」

咲ちゃんがポテトを1本つまむ。それを私に向けて振りながら言った。

冷めてシナシナのポテトが柔軟に上下する。

「じつはね、梅田の阪急と阪神電車の駅はすぐ近くにあるんだよ」

「えっ」

「だから、寝ちゃうくらい疲れてたんやったら間違える可能性あるんじゃないかな」

咲ちゃんは推理を続ける。

「で、もし阪神電車の〈急行〉に乗ってたらね、急行は神戸と大阪の間の西宮駅が終点やから、三宮には行かない。

つまりそのひとが乗ったのは急行じゃない（・・・・・・）」

咲ちゃんはポテトを半分かじった。

「けど、その時乗ったんが〈普通〉か〈特急〉やったら、その電車は三宮駅を越えたら『見たことのない駅』に停る。

もちろんそのひとが三宮以降にある駅を知らなければ、って話やけど」

「じゃあ蘭子さんは…普段から阪急も阪神電車も使ってるから、その日は疲れてて阪急に乗るつもりで阪神電車に乗ったかもしれないってこと？」

「可能性があるってだけやけどね」

そう言いながらも咲ちゃんは、難事件を解決した探偵のようなキリッとした顔を向ける。

「おお…すごい」

私は思わず拍手していた。

「どーです、名推理でしょ」

堂々とドヤ顔をする。

これは遠慮なくドヤっていいと思う。

「でも何でそんな阪神電車のこと詳しいの？ ひょっとして咲ちゃん…鉄オタ？」

「そりゃ私、通学で毎日使ってるもん。三宮駅でJRに乗り換えるけど」

「あーなるほど」

私が納得して頷くと、咲ちゃんが苦笑を向けてきた。

その表情の意味がわからず目をパチパチしながら首を傾げると、

「春ちゃんさ…3年も友達やってるんやから、もうちょい私のこと知っといてよー」

咲ちゃんにそう言われ、私は「あはは」と笑って誤魔化した。

咄嗟にポテトを掴んで口に押し込んだけど、冷めたシナシナのポテトはあまり美味しくなかった。