BLUE in the ガールズバンド
@lostinthought
第1話 イントロダクション
『蘭子がブルーノートの伝説の未発見アルバムを見つけたかもしれない』
凛子さんから突然そんなLINEが送られてきたのは3日前。2024年の10月2日。水曜日。
まだ私が6時限目の授業の英語に苦しめられている最中だった。
だからそのLINEを見たのは下校途中、最寄りのJRの駅に向かう道すがら。
「ブルーノートの…伝説のアルバム?」
私は小首をかしげた。
ながらスマホは危ないから一緒に駅に向かう友だちに待ってもらい、歩道の脇に寄る。
「なに、バンドの連絡?」
聞いてきたのは友だちの咲ちゃん。
元陸上部らしく小麦色に日焼けした肌がかっこいいスポーティな美人だ。このクールな見た目で愛嬌のある関西弁なのがすごくいい。
「そー」
私はLINEの画面を凝視する。
ブルーノート?
伝説の未発見アルバム?
私は凛子さんみたいなガチの音楽マニアじゃない。一緒にバンド活動をやっててもたまに会話についていけなくなる。
あっ、凛子さんっていうのは大学3年生で私たちのバンドのドラマー。
蘭子さんも同じく大学3年生でキーボード担当。私は美術部という名の漫研を引退した高校3年生のギター担当だ。
『どういうことですか?』
『話せば長くなる』
『できるだけ短くお願いします』
『蘭子が失踪した』
「はい?!?!」
想像もしてなかった衝撃的な返信に絶叫する。
あの絵に描いたようなお嬢様の蘭子さんが?
どういうこと??
伝説の未発見アルバムの話はどこに???
ギョッとした顔で「なになに」と咲ちゃん。
私は呆然としながら答えた。
「なんかよく分かんないけど…うちのバンドのメンバーが失踪したみたい」
「ええ?! 事件やん!」
咲ちゃんの驚きの声が響き渡る。
下校中の他の多くの生徒に一斉にこちらを見る。
四方八方からの視線が私たちに刺さるのを感じて体がジワッと熱くなる。
ライヴでも他のメンバーに隠れるようにコソコソ演奏する私と違い、陸上部のエースだった咲ちゃんは視線を浴びることなど慣れっこらしい。
羨ましいことに、周囲の目を真冬の陽射しほどにも気にしてない様だった。
私は声を潜めて耳打ちした。
「まだ事件って決まったわけじゃないって…」
「せやかて春ちゃん」
「せやかて工藤みたいに言わないでよ」
とりあえずLINEで詳細を聞く。
『蘭子さんが失踪って本当ですか? 理由知ってたら教えてください』
『今からバイトだから終わったら改めて連絡する』
私は突然宙ぶらりんにされた不安を覚え、助けを求めるように咲ちゃんを見ていた。
「なんて?」
「バイト終わったら連絡するって…」
「じゃあ事件じゃないってことやん。そんな顔しなくて大丈夫やって!」
根っからの楽天家でネアカの咲ちゃんは私の背中を叩いて励ましてくれる。
反対に根っからの心配性の私は不安のあまり、心臓がずっしりと重い鉛にでもなったようだった。
なんならゲーっと吐きそうだ。
「蘭子さん…」
スマホを通学鞄にしまい、不安な気持ちで顔を上げる。
咲ちゃんが先に歩き出す。
私は無意識に蘭子さんの名前を呟く。
はっきりと見えているはずなのに何故かぼんやりする視界には、秋の夕陽を浴びて赤く染まった神戸の街。
今夜は凛子さんからの連絡が来るまで絶対寝ない。
私はそう決めて、駅に向かう咲ちゃんの背中を追った。
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