悪役魔王(♀)はのんびり学園ライフを送りたい ~私が悪役とか聞いてないんですけど!?~
九條葉月
第1話 入学準備
――そうして。世界最初の『女魔王』が誕生しました。
彼女は次々と反対派閥を攻略し、先進的な改革を実施して。ついにとうとう人類最大国家フューリアス王国との和平を成立させました。
史上初めての、人族と魔族の平和条約です。
人と魔族は少しずつですが手を取り合い協力を始めました。
互いの国を繋ぐ道路の整備。経済交流を活発化させるための商業ギルドの設置。戦争孤児を支援するための共同基金の立ち上げ。特別に税を軽減した自由経済都市の建設、など、など。
そして。
そんな交流事業の一環として。
フューリアス王国の『王立魔法学園』に魔族の入学が許可されたのです。
和平成立から三年後のことでした。
◇
「――あら、我ながらいい感じね」
王立魔法学園の制服に袖を通した私は、姿見の前でくるりと一周してみた。
姿見に映っているのは≪転生≫してからすっかりなじみ深くなってしまった銀髪赤目の美少女……いやゴメン嘘ついた。前世と比べて顔面偏差値が高くなりすぎてまだ慣れないわ実際。
窓からの光を反射してキラキラとした輝きを発する銀糸の髪。人の立ち入れぬ山々に積もった初雪がごとき肌。そして、いかにも≪魔王≫っぽい、血を啜ったかのような赤き瞳。
うん、やっぱり慣れないわね。転生してから18年はこの顔で生きているのだけれども。
そんな私の心の内は置いておくとして。客観的に見た『美少女』に王立魔法学園の制服はとても似合っていた。貴族が着るドレスをアレンジしたような上着に、足首まで隠すロングスカート。銀髪も相まって神秘的な深窓の令嬢に見えなくもない。と思う。
「陛下、とても良くお似合いです。これはまた見合いの問い合わせが増えてしまいますな」
後ろに控えていた執事長がうんうんと頷きながら褒めてくれた。まだ18歳なんだからお見合いは結構です。魔王は世襲じゃない実力主義だから無理して後継ぎを作る必要もないし。
ちなみにこの場には信頼する執事長の他に、幼なじみの宰相(とても美少女)がいるのだけれども……。
「うわ、キツい」
幼なじみ特有の容赦ない評価であった。まだ19歳なんだから制服を着てもキツくない……あれ? もしかしてキツい? いやでも我ながら童顔だからセーフである……はず? 卒業するときには20歳越えるけど。セーフ……よね?
ちなみに。執事長は白髪の交じり始めた髪を後ろになでつけたナイスミドルなオジサマで、人間族。宰相は眼鏡が似合う美少女であり、魔族の中でも珍しい吸血鬼族。我が魔王国では種族に囚われない雇用を行っております。
と、執事長がどこか憂うような顔を作った。
「陛下、無礼を承知で申し上げますが……本当に魔法学園に入学なされるおつもりですか?」
「あら? 心配してくれるの?」
「……自分もかつてはあの学園に通っていましたので。あそこは貴族社会の縮図であり、身分制度の縮図でもあります。平民に対するイジメも平然と行われるような中に『魔族』が入学してきたとあっては……」
「イジメられてしまうと?」
「陛下であれば無用の心配であると理解はしておりますが……」
私は『魔王』としてではなく『魔族の平民』として学園に入学するからね。執事長の心配は分かるというか、むしろイジメられてプッツンした私のやらかしを心配されている可能性が……?
いやいや。いくら私でも年下相手(私は19歳だけど15歳と偽って入学するのだ。つまり同級生も15歳)に本気は出さないわよ。……たぶん。きっと。おそらくは。
まぁ未来のやらかしは未来の私に自制してもらうとして。今は執事長を説得しなくちゃね。
「あなたの不安は分かるけど、この話はもうフューリアス王国の国王も承知していることだからね。今さら中止するのも難しいのよ」
表向きは『魔法学園に本格的に受け入れる前の魔族差別実態調査』という名目で潜入捜査することになっているからね。生徒や教師には秘密だけど王国の上の方には話が通してあるのだ。
魔族に対する差別の実態調査。
もちろん、あの狸オヤジのことだから別の理由もありそうだけど。こちらにもいくつかの目的があるのだからおあいこでしょうね。
その目的の一つは、表向きの理由と同じ。本当に魔族の子供を人間の学園に通わせて安全なのかを調査すること。あまりにも魔族への差別が酷いようなら中止しないといけないし。
もう一つは、魔法学園の生徒なら誰でも利用できるという王宮大図書館(学園は王宮に隣接しているのだ)の蔵書を確認すること。大陸一の蔵書量と謳われる大図書館から知識を得ることができれば、それは我が国にとってかけがえのない財産になるからね。
そして、最後にして最大の目的と言えるのが――
――この世界でも学生生活をエンジョイすることよ!
魔王になってからずっと働きづめだったからね! フューリアス王国との和平は成立したし、共同で立ち上げた自由経済都市の運営も軌道に乗ってきた! こんなこともあろうかと地方自治も推し進めてある! 結果として一日に処理する書類も激減したのだから長期休暇(学生生活三年間)をもらっても罰は当たらないでしょう!
「…………」
私の真の目的を知っている宰相が冷たい目を向けてくる。く、クールビューティーの冷ややかな目って破壊力抜群ね。心が死んでしまいそうだわ。
「……陛下。決裁の必要な書類は毎晩お送りしますので確認の後サインをお願いいたします。また、緊急性の高い案件が発生した場合は戻っていただくことになりますのでご了承のほどよろしくお願い申し上げます」
この宰相、学園生活中も仕事させる気満々である。鬼か。……吸血鬼だったわね。
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