第19話 ハンター登録

 試験から2日後。

 俺たちは結果発表の為、ギルド会館のセンター掲示板の前に来ていた。

 まだ朝早いのに、受験者たちが姿を現していた。

 一人で来るもの、すでに仲間となっているもの。

 それぞれが期待を胸に集まってきていた。

 まるで高校入試の結果発表の瞬間みたいだった。


 それからしばらくすると、ギルド職員が紙をもって姿を現した。

 その筒状の紙を広げると、ランクと共に名前が記載されていた。

 個人情報はガン無視らしい。


 俺の名前は……あった。

 ライザ教官の言った通り、第4階級からのスタートだ。

 そしてリルとリリーも同じく第4階級だった。

 そのせいか受験者たちのざわつきが半端なかった。

 それはそうだ。

 本来であれば合格者は第3階級スタートのはず。

 それが特例的に第4階級からのスタートととなれば、なぜだと思うのは当たり前の話だ。

 おそらく俺でもそう思う。


「とりあえず無事合格おめでとう、リル、リリー。」

「主殿。当然であろう?」

「リルはもう少し人間の世界を覚えた方が良いみたいね?」


 リルは少しドヤ顔を決めていたが、リリーの言葉で少し表情を曇らせていた。

 なんというか、一昔見た『グヌヌヌ!!』みたいな感じになっていた。


「では合格者の方はこちらで受付をしてください。不合格だった方はまた来週受けることが出来ますので、そちらを受験してください。10回までの受験は可能です。」


 なるほどね。

 一回ダメだから終わりじゃなくて、ちゃんと挽回のチャンスがあるのか。

 しかも9回も。

 さすがに10回受けてだめだったら諦めがつくだろう。

 それに第1階級であれば、不合格だったとしても探索許可証ライセンスカードはもらえるそうだ。

 ただし第1階級と第3階級では入れる場所も変わって来るそうだから、是が非でも第3階級の探索許可証ライセンスカードは欲しいのだろうな。


 俺たちは案内された受付カウンターで必要書類にサインをした。

 そこには契約書のようなものもあり、狩猟者ハンターとしての行動は自己責任で、狩猟者連合協同組合ハンターギルドは責任を追わないというものだった。

 それ以外にも注意事項や、心構え。

 そして何よりその階級ごとの特権について記載されていた。


 俺たち第4階級は狩猟者連合協同組合ハンターギルド施設の使用許可だったり狩猟者連合協同組合ハンターギルドに協賛している武器・防具屋や、道具屋などの割引なども含まれていた。

 これはこれからの旅ではものすごく助かるものだ。

 いらない出費を抑えられるんだったらそれに越したことは無いから。


 そして一通りサインを終えると、一枚のカードと針のようなものを渡された。

 受付嬢の説明ではこのカードに自分の血を一滴垂らせば登録完了とのことだ。

 だったらさっさと済ませた方が良いから、俺はためらうことなく指に針を刺し、一滴の血をカードに垂らす。

 するとカードはその血を吸収するがごとく、わずかに光ると跡形もなく血は消えていた。


「お疲れ様です。これで登録は完了となります。紛失しますと再発行手数料と共に、貢献度へのペナルティー又は降格もあり得ますのでお気お付けください。」


 意外とこのカードの重要度の高さに驚いてしまった。

 どう見てもただの黒地のカードでしかなかったからだ。

 普通こういうのってランクによって色が違いそうだけど、この世界のカードは皆黒一色。

 ただし、機械に読み込ませるとその階級が分かるようになっていた。

 受付嬢がチェック用の機会に俺のカードをかざすとちゃんと第4階級の紋様が描き出された。

 リルとリリーは仲良く作業を行い、カードの登録を完了した。


 こうして晴れて俺たちは狩猟者ハンターとしての第一歩を踏み出した。

 そう、俺たちの戦いはこれからだ!!


「陸人……変な事考えてない?なんで拳を振り上げているの?」

「いや、なんでもない。ノリだから気に薙いでほしい。」


 リリーの冷静で冷めた突っ込みを全身で感じた俺は、ゆっくりと拳を下ろし何もなかったかのように受付嬢の話に耳を傾けた。


「最後に私から一つだけ。必ず生きて我々受付担当へあいさつしに来てください。私からの願いはそれだけです。では皆さまのご武運をお祈りいたします。」

 

 そう言って受付嬢はゆっくりと頭をさげた。

 それは丁寧でいて、切実さを感じさせるものだった。

 狩猟者ハンターはすべて自己責任で行われる。

 だからと言ってギルド職員だって感情はある。

 関わった狩猟者ハンターが命を落とせば、悲しみだって起ころうというものだ。

 だからこそ俺は心に誓った。

 絶対に〝呪いの魔王〟を復活させないと。

 俺はこの世界の住人じゃない。

 だからと言ってここまで関わってきた人を蔑ろにしていいという理由にはならない。

 それに〝呪いの魔王〟が復活すれば何処も安全とは限らない。

 だったら動くことの方が賢明だ。


「分かりました。必ず報告に帰ってきます。ですからその時は笑顔で迎えてください。」


 俺はそう言うとギルド職員に向かって頭を下げた。

 それにつられたのか、リルとリリーも一緒に頭を下げる。

 俺たちの他にも同じように、今日晴れて狩猟者ハンターになった動悸が沢山いた。

 そして彼らもまた俺と同じように頭を下げていた。

 なんだか暖かな空気がこのギルド会館を包んでいく気がした。


「じゃあ行くかリリー、リル。」


 俺たちはここからこの世界の冒険を始めたのだった。

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