第16話 なんだかんだで強い二人でした

 講義が終わりぞろぞろと訓練場へやってきた俺たち。

 ギルド会館の裏手に回ると、広いスペースがあった。

 奥にはスタンド席のようなものもあり、観戦も可能だということだろうか。

 広さもなかなかで、おそらく500m四方は有りそうに思えた。


「受験生は中央に集まるように!!」


 ライザの声が訓練場全体に響く。

 どれだけの声量を持ってるんだろうな。

 なんてどうでもいいことを考えつつ、ライザのもとに急いで移動した。


「それでは実技試験を開始する!!こちらが準備した武器を手にして、模擬戦を行ってもらう!!戦闘職と魔法職で別れて行う!!自分の得意武器を取って直ちに準備するように!!」


 模擬戦か……とりあえず俺は剣で良いとして、リルは……ってどれを使うか迷っているのか。


「すみません、徒手空拳の奴はどうしたらいいんですか?」

「それなら小手を装備するといいでしょう。まあ、あまり人気が無いのでお勧めはしませんが。」


 ライザの他に補助の教官もつくようで、一人の教官がリル用の武器を選んでくれた。

 だがその目はどこか品定め……というよりは視姦でもしているように、視線を上下に動かしていた。

 それに気が付いたのか、リルから殺気が徐々に漏れ出してきた。

 おそらく気持ちが悪いって思っているんだろうな。

 見た目は美少女だが、フェンリルだしな。

 殺気にあてられた補助教官はバツが悪そうに退散していった。


 リリーについては特に難しくはなく、選びようがなかった。

 何せサイズが無いんだから。

 というわけでリリーは武器無しで参加となった。

 リリー的には不要だったようで、特に気にしてはいなかった。


 一通り準備が終わったようで、試験が開始された。

 武器職は補助教官と模擬戦を行い、いろいろアドバイスをもらっているようだった。

 魔法職については的に向かって魔法を放つ。

 なんともシンプルな試験方法だな。


「次、リル!!前に出ろ!!」


 俺たちのトップバッターはリルだった。

 手にした小手……をガキンガキン打ち鳴らす姿は、その容姿と相まって違和感しかなかった。

 しかも可愛らしい見た目とは正反対の、獰猛な笑みを浮かべている。

 対峙した教官も若干引き気味だけど、すまんが我慢してほしい。


「リル!!気を付けるんだぞ!!ケガには注意だからな!!」


 俺の声に笑顔で手を振るリルだったけど、本当に理解しているんだろうか。

 相手に対して手加減しろという意味を……

 俺の応援がリルに対する気遣いだと思ったのか、教官も少し落ち着きを取り戻していた。

 ってより、若干気を抜きすぎな気もするが……けがは自己責任で頼む。


「初め!!」


 審判役の教官の合図で、相手の教官は槍を前方に構える。

 その切っ先はきちんとリルの眉間を狙っており、手加減はするものの、本気で行くとの意思表示に思えた。

 リルはそれに対し、ニヤリと口角を上げ牙を剥く。

 リルとしても楽しみにしていたのかもしれない。


 リルは教官にタックルでもするかのように姿勢を低く構えた。

 それに教官は何かを感じ取ったのか、構える槍に力が入ったのが見て取れて。


「若いな……」


 リルはそう言うとその場から姿が消えた……ように見えた。

 まあ、実際は目にもとまらぬ速さって言えばいいのか、人の動体視力を超える動きを下に過ぎない。

 うん、手加減って言葉を知っているんだろうか……


 教官はリルの姿を探しているようだけど、リルはその場にとどまることはない。

 つまり、見つけることは無理だってことだ。


 受験者のほとんどはリルの姿を見失ったみたいだけど、ライザ教官とその他数名の受験者はその姿を追っていた。

 

「もう一度修行をやり直せ!!」


 翻弄する事を辞めたリルが姿を現した。

 それと同時に決着がついていた。

 いつの間にか教官は組み伏せられ、その上に乗るリルの拳が教官目掛けて振り下ろされる。


 激しい衝突音と共に砂ぼこりが舞い上がる。


 教官の顔の脇の地面には、リルがつけたであろう拳のあとがくっきりとついていた。


「や、やめ!!」


 慌てた審判が模擬戦の終了を告げる。

 一瞬の沈黙の後、一気に歓声が上がる。

 リルの容姿も相まってか、惚れただのなんだのとのたまう輩も出てきてしまった。

 まぁ、リルが魔獣だと知ったらドン引きするんだろうけど。


「リルお疲れ様。それと、もう少し加減をした方が良いだろうな。あれだと死人が出かねない。」

「すまぬ主殿。まさかあれほどの実力だとは思いもせんなんだ。次からはもっとうまく手加減をすることにしよう。」


 現状に若干気まずそうな表情を浮かべるリルだったが、これで合格はおそらく間違いないとは思う。

 リルを不合格にしたら、今回の合格者はほとんどいないと思いうからね。


 それとは別区で試験を受けていたリリーもゆっくりと戻ってきた。

 もちろんドヤ顔で。

 結果は聞くまでもないだろうな、なんせ見た目は妖精、中身は神様なんだから。


「リリーもお疲れ。結果はどうだった?」

「エッヘン!!」


 これまたドヤ顔決めるリリー。

 ふと、魔法試験の方を見てみると、教官たちが慌てて作業を行っていた。

 おおよそ試験用の的を爆散させたんだじゃないのか?


「あ、私が的を爆発四散させたって思ってるでしょ⁈あのね、私だって手加減くらいできるんですからね⁈ちゃんと的全てを撃ち抜いてやったわよ!!」


 右手人差し指を立ててふっと何かを吹き消すしぐさをするリリー。

 いったいそんなのどこで覚えたんだ?って聞きたくなったけど、まあ、神様だし、聞くだけ無駄なんだろうな。

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