第5話 立て板に水とはこのことだろうか

「元魔王国【ファンダルシア】はもともと魔導が栄えていた地域よ。ちなみに魔導は魔法の原点って位置づけね。古より伝わりし、魔の力が魔導。この世界のエネルギーと自分の持つエネルギーの調和から生まれる高純度のエネルギーを操るすべの事よ。それを簡略化して誰でもつある程度使えるようにしたのが魔法。そしてそこにカラクリの力を使って制御しようとしているのが魔法科学。神聖国はその中でも神聖魔法……魔法学の一学問を祖としている国よ。」

「ちょっと待てって、一気に話されても困るから……一回整理させてくれ。」


 つまりはあれだな。

 ①魔導の簡易版が魔法

 ②それに科学?を合わせたのが魔法科学

 ③神聖魔法を神聖化しているのが神聖国


 ってことかな?

 あれ?待てよ……もしかして魔王の方がもともといた権力者ってことじゃないのか?


「おおよそ陸人が考えていることはわかるわよ。そう、魔王はもともとこの世界の統治者よ。魔王とは魔導を極めた人間に与えられた神の祝福だったのよ。」


 おかしいな……魔王と言えば暴君って相場が決まっているんだが?

 もしかして乗っ取られた挙句、封印されたって落ちじゃなかろうか……

 しかもその力の一端をかすめ取られたと。

 なんか今の世界の方が悪に見えてくるんだが。

 むしろ魔王復活の方が良いんじゃないか?


「残念ながらそうも言っていられないのよ。さっきも言った通り、魔王は〝復活〟するの。魔導師が祝福を得るんじゃなくてね。今回復活する魔王は理不尽に散っていった魔導王国の恨みをかき集めた存在。祝福の魔王ではなく、呪いの魔王なのよ。これは元魔王国の臣民だけの問題じゃなくなってしまうのよ。」

「なんだか規模が大きい話になってきたな。つまりそうならないためにも魔王復活を阻止する必要があるってことであってるか?」


 そうなると、今後の方針だけど……どこの国に行くかってことだよな。

 リリーの話だと、どの国もなんというか腹に一物抱えてそうなんだよな。

 困った……


「ところでリリー。元魔王国って現状どんな感じなんだ?」

「元魔王国は現在最高権力者がいない状況で、連合国として機能しているわ。当時の魔王四天王の家系がそれぞれの領地を管轄している状態ね。国としての最終決定権は合議制で、ある意味地球の文化に一番近いかもしれないわね。」


 なら元魔王国一択じゃないか。

 これ以上考えても無駄だし、むしろ好都合かもしれない。

 一緒にこっちに来た奴らは全員3地域に行ってるはずだし、それなら誰も来ないであろう元魔王国に行くのもありだな。


「リリー、行先は西の元魔王国【ファンダルシア】にしてくれ。どうせ魔王復活したらそこに行かなきゃいけないわけだろ?早いか遅いかの違いしかないからな。」

「OK、任されたわ。じゃあ、これから出発ね。」


 俺とリリーの二人旅がこうして始まった。

 これから先について不安しかないが、まあ何とかなるだろう。

 一路進路は西へ!!いざ行かん、元魔王国【ファンダルシア】へ!!


「あ、そうだ。陸人の年齢が20歳くらいまで若返ってるからね?」

「そう言うことは先に言え!!通りで身体が軽いわけだよ!!」


 あぁ~もう、この先ちゃんとやっていけるのか?

 不安しかなんだけど……




—————— 


「あぁすっきりした!!あいつの情けない顔ときたら……思い出しても面白かったぞ!!」

「お前ってやつは!!」


 陸人の元上司、冴内が陸人を押し倒し魔方陣を稼働させた後の事。

 元部下たちに反旗を翻され、腸煮えくりかえりそうだった冴内は高笑いを上げていた。

 その下品な笑いは周りにいた転移者たちもドン引きするほどのものだった。

 それに異を唱えたのが元部下……というよりは陸人を慕っていた者たちだった。

 と言っても転移前陸人を助けることが出来ず、ずっと心の中で罪の意識に苛まれていた者たちだ。

 冴内を取り押さえるように圧し掛かったのは陸人と同期入社の須磨だった。

 

「須磨ぁ~~、今更いい人ぶるんじゃねぇ~よぉ~。キヒヒ、お前だって間宮に助けてもらったのに、その後見捨てたじゃないかぁ~?えぇ?ここにきて俺だけを悪者にするは筋違いじゃ。」


 冴内が全てを言い切る前に、言葉が断たれた。

 冴内の顔面目掛けて須磨が殴りつけていた。

 そのすべてを言われるのを恐れるかのように、何度も何度も。

 それでも冴内の口撃は止まらない。


「ぐひ、ひ、ひでぇ~なぁ~。それにお前も……さっきいい顔してたぞ?にやってな……」

 

 さらに殴りかかろうとしたところで、誰かが須磨の手を止める。

 まだ殴り足りない須磨は、それを払いのけようとするもびくともしなかった。


「渡来……止めるなよ……こいつは!!」

「分かってる。だが俺たちは自分たちの立場のために間宮を見捨てたことは事実だ。それをこのくそにぶつけたところで、何も変わらないだろ。それよりもこれからを考えないとな。こんなバカに構っている暇なんてないんだ。」


 そう言うと、渡来が指さした方に不安げにこちらを見つめていた数人のスーツ姿の人物がいた。

 男女合わせて8名でどれも陸人の会社の人間だった。

 須磨は、握った拳を振り下ろすことなく冴内を解放する。

 その目には殺意が宿っており、渡来は深くため息をつく。


「渡来の方が分かっているみたいだな。お前たちは俺の部下だ!!駒なんだよ!!それを今更偉そうに講釈垂れるな!!お前らも共犯なんだよ!!」


 せっかく拾った命にもかかわらず、冴内は挑発を辞めることは無かった。

 何が彼を突き動かすのか、誰にもわからなかった。

 だが言えることは、いまだに自分は上位者だと思っているということだった。


「で、渡来、こいつをどうするんだ?まとわりつかれたら面倒だぞ?」

「それについては考えがある。なぁ、神様よ。3地点の他にどっかあるんじゃないのか?」


 チラリと神に視線を送る渡来。

 それに気をよくしたのか、神と名乗る男性は二マリと笑みを浮かべる。


「そうですねぇ、あるにはありますが……あまりお勧めはしませんよ?」

「いいから教えろ!!」


 怒気を孕んだあ渡来の言葉にさらに笑みを浮かべる。

 何か楽しんでいるようにしか渡来には見えなかった。

 須磨もそんな男性にイラつきを覚えるも、今は渡来に交渉を任せていると自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる。


「では、かつて魔導を極めた王国【ファンダルシア】。それと、世界の果てにある魔獣が統べる大地……名もなき島。この二つですね。まあ、名もなき島はお勧めしませんよ?行ったところで誰もいないんですから。」


 それを聞いた冴内は嫌な予感を覚える。

 そして渡来と須磨は互いに頷きあい、冴内に近づく。

 冴内はしりもちをついたままズルズルと後退りをするも、すぐに二人に捕まってしまったあ。

 すでに冴内は先ほどの攻撃で力が入らない状況にあった。

 そして二人にされるがまま、魔方陣の中心へと連れてこられる。

 そして二人は魔方陣を起動させ行先を設定する……名もなき島と。


 すると魔方陣は起動をはじめ、冴内を包み込んでいく。


「お前ら!!覚えていろ!!必ず復讐してやる!!必ずだ!!」


 すべてを言い終る前に、魔方陣の光は消えていった。


「なあ、渡来……」

「須磨、今はこいつらを護らないといけない。」


 須磨は渡来の言葉にしぶしぶ納得した。

 出し掛けた陸人を助けたいという思いを胸にしまい、自分たちも魔方陣を稼働させる。

 行先は魔法科学が発展した地域、技術帝国【ガルテッツァ】として。


 こうしてそれぞれがそれぞれの道を歩み始めるのだった。

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