第2話 神の役目

「えぇ、お集りの皆さん、ようこそお越しくださった。っと言ってもこちらから強制的に招いたので、混乱されているでしょうね。」


 俺がここに来てから、5分くらいたったころだった。

 突然立体映像が空に映し出された。

 そこには真っ白な衣をまとった男性の姿があった。

 背には3対の羽が生えており、普通の人間とは思えなかった。

 もしくは作り物的な何かかもしれないが……


 その人物が現れるや否や、怒号が飛び交った。

 さすがに日本語は聞き取れたけど、罵声を浴びせているのは、あの上司だった。

 うん、あいつと関わらないようにしよう。


「お怒りなのは重々承知でございます。まずはこちらの話を聞いてください。」


 そう言うと、パンという柏手の音と共にその男性から何か光のようなものが放たれた。

 それは放射状にこの神殿に広がり、さっきまでの喧騒がウソのように静まり返っていた。

 それをうんうんとにこやかに頷いて確認すると、男性は話の続きを始めた。


「この度お集りになっていただいたのには訳があります。それは皆さまにこの地球とは別の世界で生活をしていただきたいのです。これは神々の条約で決まっている事ですので、否は出来ません。というよりも、地球でのあなたたちの存在は抹消されました。つまり、どのみち帰る事は不可能なのです。」


 ちょっと待て、こういうのって普通は『魔王を倒せば』とか『自力で帰り方を』とかって流れじゃないのか?

 それなのにすでにあの男性によってそれを否定された。

 と言っても、あの男性を信用したならばって話なんだが。

 俺はあの男性が信用できずにいた。

 なぜならば、あの男性はにこやかな笑みを浮かべた際に、目が全く笑っていなかった。

 むしろ虫でも見ているかのように、全く関心を持っていなかった。

 それだけでも疑うには事足りた。


「すみません、一つお伺いしてもよろしいですか?」


 皆が困惑している中で、一人の男性が声を上げた。

 都市は俺よりも上だろうか……おそらく50代だと思うけど、何やら場慣れしているのか、かなり落ち着いていた。


「えぇ、構いませんよ。」

「では、お言葉に甘えて。なぜ私たちが選ばれ、そしてどういった理由で転移というのをさせられるのでしょうか。このままでは納得がいかない方々も多いと思います。」


 その言葉にほとんどの人が同意を示していた。

 黙ってじっと答えを待つ者、答えを急かすように声を荒げる者、困惑の様子を浮かべる者、人それぞれだった。

 こういう時その人の本性が見え隠れするんだろうな。


「そうですね、その辺の説明は致しましょう。まず第1に神々の条約というものがあります。細かい説明は省きますが、その星のエネルギーが枯渇しそうな場合、余剰エネルギーがある星から分けてもらうのです。その際に、余剰エネルギーを配る方の星の神との交渉でその条件が決まるのです。今回の場合は、私の世界からの余剰エネルギーを送り込む代わりに、あちら側の技術を伝授してもらうという物です。」

「それでは説明になっていません。わざわざ我々が転移する意味がないように思えますが。」


 それはそうだろうな。

 今の話だと、エネルギーを送る代わりに技術をもらう。

 俺たちの役割が全く分からない状況なんだから。


「あなた方に分かり易く言えば、血液でしょうか。体中に酸素を供給するために赤血球が必要となります。ここでいう酸素が余剰エネルギー。赤血球はあなた方人類です。」

「つまり、ただのキャリアーというわけですか……」


 あれ?妙に納得してしまったな、あの人。

 周りの人といろいろ話しているけど、こっちまでは聞こえてこない。

 おそらくそれ以外の要因があるはずだが、もっともらしい説明で誤魔化そうとしているようにしか聞こえなかった。


「それでは最後の説明です。あなた方が送り込まれる世界は4つに区分されています。1つ目は魔法文明が発達した地域。2つ目は魔法科学文明が発達した地域。3つ目は神を祀る地域。4つ目は……未踏破地域です。ここは3つの地域の中心部分にあり、互いに干渉する事を妨げています。まあ、選択肢には入らないでしょう。」


 つまり、その地域によってこれからの人生が決定することになるってわけか。

 42歳になって魔法使いとか……ちょっと痛いよな。

 絶対3つ目は選択したくない。

 確実に教会関連が支配する地域だからな……いや、ワンチャン良い感じにまとまってるってこともありそうだが……

 となると、2つ目の魔法科学文明の地域が無難だろうな。


「それではそろそろ移動してもらいましょうか。ここを維持しているにもエネルギーを使ってしまいますからね。心の準備が決まった方から、神殿中央の魔方陣に乗って、目指す地域をこのコンソールから選択してください。まとまっていたい場合は一緒に乗ってください。」


 そう言うと投影されていた男性の姿は消え、神殿中央に光り輝く魔方陣が出現した。

 それは何処の国の言葉で書かれているか分からない文字がびっしりと並び、幾何学模様とでもいえばいいのか、そんな形の図形が描かれていた。


 此処に集まった人はおおよそ1000人前後。

 それぞれの地域や文化が近い者たちが集まり何か話し合いをしていた。

 俺が周りを見渡すと、クソ上司も周囲にいた。

 おそらく部下だろうな、そいつらに何やら命令をしていた。

 まさかここにきてもあのくそ上司は、自分が上だと疑わないようだった。

 あ、後ろから誰かに殴られた……って、言わんこっちゃない。

 日頃の恨みつらみを晴らすように、ボコボコにされてるな……

 幸先悪そうで何よりだ。


 そんなことより、自分の事を考えないとな。

 誰かと組んだ方が絶対いいに決まってる。

 だが誰かと組むとなると、また上下関係に悩まされる。

 だったら一人の方がましって気がしなくもないな。

 うん、ソロで生きますか。


 俺はそう心に決めて、動き始めた。

 そして魔方陣に足を踏み入れようとした時だった。

 誰かから突き飛ばされたように、前のめりでつんのめってしまった。

 

「お前もいたのか!!だったらお前は4番だ!!」


 俺を突き飛ばしたのは、あのくそ上司だった。

 自分がボコられたのを俺で発散しやがった!!

 俺は操作を取り消そうとコンソールに向かったが、時すでに遅し。

 転移は始まり、そこで俺の意識は暗転したのだった。

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