気づいたら裏組織のNo.2になってた~無駄知識の力で頑張ります~

やまちゃ

序章:出会いと決意

第1話

「お前を私の最側近たる主命官に任命する。」

その言葉に周りにいた面々は目を見開き、そして僕を見つめる。

怪訝な顔をする者、面白そうにジロジロ見る者、見極めるように目を細める者―


その中で僕は恐る恐る口を開く。

「分からない…何で僕が?」


「お前の知識が必要だ。」

僕の前に立つ女性が冷徹な瞳で僕を見つめる。


僕はその言葉を聞いても、まだ何のことだか理解できていなかった。どんな組織に、どんな理由で関わることになったのか、それが全く見えていなかったからだ。











――――――――――――――――――――――












リオ・クライヴ、16歳。ルーナ王国の貴族の一つ、ヴェルダン男爵家の長男だ。ただ貴族といっても底辺で、領地などなく、貴族としての特権などないに等しい。


僕は特別な才能があるわけではなかった。どちらかと言えば、好奇心の赴くままに無駄に知識を深め、誰からも役立つとは思われていない、ただの凡庸な青年だった。


僕の知識は、かつて存在した古代生物「魔竜」、空を飛ぶ鷲のような生物に乗る交通手段「飛行鷲道しゅうどう」、過去の王国の戦争や英雄に関する「王国史」、そして頭脳を使って戦うボードゲーム「神棋」。

――どれも、実用的なものではない。


自分の興味があるものにのめり込んだ反面、貴族として学ぶべきマナーや剣術、算術などは平均的か、それ以下。両親は僕の意思を尊重し自由にさせてくれたが、周りからは冷たい目で見られており、勉強熱心な妹のほうが家を継ぐのにふさわしいとまで言われている。



そんな僕は、歴史書を読むため、いつものように王立図書館に行っていた。

その帰り道に、事件は起きた―


突然、目の前で何かが爆発した。大きな音と共に煙が上がり、驚いて立ち止まる。すぐに町の広場が混乱に包まれ、何人かの黒いフードを被った人たちが逃げていくのが見えた。混乱の中、何かに巻き込まれる前に必死に避けようとしたが、ふと目をやった先に、見覚えのない女性が倒れているのを発見した。


いた僕はその女性に駆け寄り、周りを見回す。彼女の姿はどこか普通ではない雰囲気を醸し出していた。黒いマントが焦げた匂いをまとい、肩に小さな傷を負っている。戦い慣れているようにも見えるが、今は明らかに弱っていた。


「大丈夫ですか?」

声をかけると、彼女は薄く目を開けた。鋭い眼差しが僕を捉える。


「……助けてほしい。」

その声はか細いが、不思議な威厳を帯びていた。


どうすればいいか分からないまま、僕は周りの状況を観察した。追手と思しき男たちが近くを捜索している気配がある。このままでは彼女は見つかってしまうだろう。なぜだか分からないが、放っておくわけにはいかなかった。


僕はとっさに、彼女を裏路地に引き込もうとした。


「いたぞ、あいつだ!」


気づかれてしまったようだ。僕は彼女とともに裏路地に駆け込んだ。


走る後ろから追手の気配がする。僕は小石を拾うと、路地の構造を脳内に思い浮かべる。


「神棋と同じ…」


路地を盤面に置き換え、敵の動きを読む。


(ここだ!)


タイミングよく小石をあるポイントに投げると、金属音が響き、追手の注意が向く。その間に、僕たちは大きな通りの人ごみに紛れた。追手は音に惑わされこっちに逃げたとは思わないはずだ。僕にはそこまで読めていた。



別の細い路地に逃げ込み、息を整える。ここなら明るく大通りも近いから、大丈夫だろう。


「助かった。感謝する。」


僕の前に立つ女性が、威厳のある声で言った。


「しかし、どうやって撒けた?」


「いえ、路地を神棋の盤面に置き換えて、敵の行動を読んだだけで…」


僕はぼそりと答える。


「そこまでの先読みができるのか。他に何ができる?」


「いや、僕なんて、魔竜とか王国史とか飛行鷲道とか、無駄な知識しかなくて…」


彼女は目を細めて笑ったように見えた。


「お前、名は?」


「リオ・クライヴです。」


「ではリオ、私に少し付き合ってもらおう。」


彼女の言葉には逆らえないような圧があった。


この出会いが、僕の人生を大きく変えることになるとは、この時はまだ知らなかった――。

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