繰り返される、悪夢。

 

・・・あぁ、また、あの夢だ。


目の前の光景に、私は失意の息を零した。


何度、見たことだろう。


何度見たって、慣れやしない。


辺りを見渡す。


暗い部屋の玄関。いつもの通り、開きはしない。


開くのは、居間に続く扉だけ。


他のどの扉を開けようと試みても、強い力に反発され、分かりきっている事実に、溜め息を漏らす。


許された道程みちのりは、たった一つ。


微かに震える足を動かして、廊下を進む。待ち受けているものが何か分かっていても、動悸どうきを、抑えられずに。


辿り着いた扉。私は恐る恐る、取っ手に手を伸ばす。鉄の冷たさが、掌から背筋を這い回る。


きしむような音と共に、扉が、開け放たれる。


まるで光を拒絶するような、暗い空間。酷く荒れた私の息遣いだけが、唯一の音として部屋をうごめく。


暗闇に、視界が慣れてくる。「それ」は静かに、浮かび上がるように、目の前に居た。


「はぁ・・・、はぁ・・・」


上擦る呼吸が、自然と漏れる。指先が、痙攣けいれんのように震える。脳が、思考を拒絶する。


しかし、私の瞳だけは、私の意思に反して、「それ」を見続けた。瞳を、見つめ返していた。


ガラス玉のような瞳は、私を映していた。その中の私は、酷く滑稽こっけいで、歪んだ表情で、怯えている。




助けて。




誰を?




許して。




何を?




目を離せずに、繰り返される、呪詛のような、自問自答。冷や汗が、頬を伝う。


ガラス玉のような瞳から、何かが零れる。


それは、赤く、生々しかった。


「それ」は静かに、笑みを讃えた。


それはまるで、下弦の月に似ていて。


堕ちていく、三日月のよう。


恐怖のあまり、私は叫んだ。喉を潰すほど、大きな声で。




・・・あぁ。また、あの夢だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る