親睦会
突っかかってきた破落戸共を衛兵に突き出したラックと二人のギルドワーカー。
治安良化の協力をしたとして1500バルを貰った三人は、ギルドの立ち位置から西、酒や食料を売る店が立ち並ぶ食料街と呼ばれる通りに立っていた。
「立ち話もなんだから、食事でも取りながら話そう」
「それは良いけど、俺あんまり金持ってねぇぞ」
「それは大丈夫だ。こちらが奢ろう」
黒髪を短く刈り揃えた、鎧を身に着け三角型の盾とブロードソードを背負った男性が物柔らかな面持ちでそう言う。
「いいのか?自分で言うのもなんだが結構食べるぞ?」
「大丈夫だ。これでも稼いでる方でな。それに、お前は大成しそうだしな」
「顔をつないでおいて損はない」と単なる親切だけではなく打算を含んでいることを示す男性。
「そういうことなら喜んでご馳走になるぜ」
「うむ。では料理屋に行く前に自己紹介といこう。俺はシンス。
「私はコルン、シンスと同じ剣士で、普段は二人で依頼を受けているの」
「私は人族だけどちょっとエルフの血が入っているわ」と少し尖った耳を見せてくれるコルン。
「俺はラック。ギルドワーカーになりに此処に来たんだ」
「と、いうと、もうギルドには行った感じ?」
「おう、1時間ちょっと前にギルドで申請してな。今は発行を待っているところだ」
「だったら話す時間はあるな。ついて来てくれ」
そう言って先導するシンスについていくコルンとラック。現在歩いているところは比較的安価な料理が楽しめる庶民向けの区画であり、それを物珍しそうに見回すラックを微笑ましそうに見る二人。やがて一行は一つの料理屋の前に着く。
比較的古めな外観で歴史を感じさせる2階建ての建物。看板には『
「この店は
「おうらっしゃい、二人とも元気そうで何よりだ。そっちのは?」
「どうも。こっちはラック、最近この都市に来たらしくてな。」
「破落戸に絡まれてて、それを助けた形で知り合ったの。あの感じだと助けはいらなかったかもしれないケド」
「いや正直手間が省けて助かったよ。シンクに紹介された通り、ラックという。この都市にはしばらく居るつもりだからよろしく頼むよ」
「おう、よろしく。俺はここの店長をしているマルサムだ。奥の方に空いてる席がある。そこに座ってくれ。メニュー表が置いてあるからそこから料理を選んでくれ」
マルサムが親指で指す方向には、ちょうどぽっかりと空いたように客のいない席がある。そこ座ると、シンスがメニュー表を渡してくる。
「遠慮することはない、何でも頼んでくれ」
「よっしゃ!…じゃあ羊肉の定食大盛りと春野菜のサラダで!」
「わかった。コルンはいつものか?」
「うん」
「了解。じゃあ店員を呼ぶぞ」
シンスがテーブルに備え付けてあるベルを鳴らすと店員の女性がやってくる。注文を聞いてきた女性にラックが頼んだものとジャンプブルのステーキとパン。そしてアンチョビとベリテタマネギのシーザーサラダを頼んだ。
「それで、さっき此処にはしばらく居るつもりだと話していたが、どのくらい滞在するつもりなんだ?」
「次の旅費が貯まるまで。まぁざっと2か月くらいだな」
「なるほど。まぁお前の強さならすぐに階級が上がるだろう」
「階級ねぇ…金とか銀とかあるのは知ってるが…」
「それは上から3番目と4番目だな。ギルドの階級は大きく6つに分けられる。下から
「へー。どういう奴がいるんだ?」
「そうだなぁ。基本的に国か大きな貴族の直属になるのが大半だからなぁ。この辺で有名なのは『フラハリアの氷狼』と『
「それが何でブレーチャに?」
「何でもラウンドオウルのご令嬢が旅したいというもんだからその護衛に駆り出されてるんだと」
話していると料理を持った給仕がやって来て料理を置いていく
「どうも。へぇ、大変だねぇ。そういや氷狼ってどこかで聞いたことがあるような…んめぇなこれ」
「それはあれだね。半年前に起こったスタンピードだね」
サラダを突っつきながらコルンが口を挟む。
スタンピードで生まれる魔物の強さはムラがあり、金・白金級のギルドワーカーが居ればどうにかなる難易度から、宝石級が何人かいなければ討伐できない苛烈なモノもある。
「半年前に起きたのはフラハリアの南、アルドゥ―ス山脈の方角から現れたね。かなり大規模なスタンピードだったけど、氷狼さんが群れに突っ込んで大半を凍らせちゃって、親玉も凍て砕いちゃったそうだよ。その話がラック君のとこまで行ったんじゃないかな」
―言われてみればそんな話だった気がする、とラックは思った。自分が聞いた話だと時を止めただとか、巨大な氷の巨人を召喚しただとか話に尾鰭が付きまくってた気がするが、ラックの出身はベリテ共和国。それもかなり外れた所にあるものだから誇張されてしまうのも仕方がないだろう。
そのまま話は弾み、食事もそれに伴って恙なく進む。最初にラックが食べ終わり、次にコルン。最後にシンスが食べ終わって親睦会はお開きとなった。
「何かあれば話してくれ。できるだけ力になろう」
「私たちは普段ギルドの近くに居るからね!見かけたら声をかけてほしいな!」
「おう!、助けてくれてありがとな!」
そうしてラックは二人と別れた。
別れた後の足は当然、ギルドに向いている。
少年は行く。発行が終わったであろうギルドタグを受け取るために。
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