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ふと気が付くと、辺りには色のない景色が広がっていた。周囲に視線を巡らせても、映すのは鬱蒼と茂る無色の木々ばかり。
それは久々に見た、懐かしくもある風景だった。思わず僕の頬が緩む。
初めてこの景色を見た時、僕は何を思っただろうか。今となってはもう、思い出せない。
それでも、僕がするべき行動は決まっていた。視線を巡らせ、唯一の道を確かめる。
感覚はいつも通り、現実に即した感触を与える。それを確かめて、僕は一歩を踏み出した。
どこまでも、続く道。
君と、出逢えた道筋。
一歩一歩を踏み締めるように、懐かしさを足元から感じるように、僕は一本道を進んでいった。
困惑、焦燥。そういったものを過去に感じたのかもしれない。でも、それは過去の事。視界に映る、景色のように。色褪せた、記憶のように。
目の前に、石段が現れる。振り返ると、
その動作が、
今だからこそ、思い出せない。あの時の感情。今だからこそ、思い描く、あの時を経た、今の感情。
ここから、全てが変わった。
そうして、変わった今がある。
足は疲れを覚えずに、石段を登り切る。急に開けた視界には、色のない鳥居。大きな石。そこに座る、君の姿があった。
思わず、顔が綻ぶ。君も、表情を緩ませる。
「・・・誰?」
君は、明るい笑顔で問いかけた。その声に、目頭が熱くなる。
夢うつつ。聞き慣れた声。
二度と、聞くことの出来ない声。
僕は君に気付かれないように、喉に力を入れて堪えた。そして、望む言葉を発した。
「・・・君は?」
その言葉に、君は満足そうな笑みを浮かべ、声を漏らして笑った。
「名前、聞いていい?」
君の遊びはまだ続く。僕もまた、それに付き合う。
あの時を、なぞるように。
今を、踏み締めるように。
「一ノ
「私は、春日井一葉。弦さん。・・・ありがとう」
それは、覚めた夢の続きのようで。
微かに涙を浮かべる笑顔の君を、僕はそっと抱き締めた。
そうして、僕らは。
夢の、続きを。
二人で、並んで。
歩き始めた。
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