『金星のパラソル』

花鳥あすか

第1話

あるところに、手ぐせの悪いNちゃんという女の子がいました。Nちゃんは人の大切なものを盗むことに快感を覚える子で、その悪癖は中学に入るまでとうとう治ることはありませんでした。ある日、クラスメイトのAちゃんがお家で誕生日会を開くと言って、クラスメイト全員をお家に招待しました。Aちゃんはお金持ちの家の子で、すてきなものをたくさん持っていました。

NちゃんはAちゃんのお家に入ると、周りの様子を伺いながら、お宝探しを始めます。そしてAちゃんのお部屋に忍び込むと、お姫様が使うような鏡台が目に入りました。Nちゃんはこれが欲しいと思いましたが、とても簡単に盗めるものではありません。そこで、Nちゃんは鏡台の上にところ狭しと並んでいる、香水瓶や化粧品、キャンドル、ガラスのお人形などを物色し始めました。この数なら、ひとつ盗んでもAちゃんは気づかないだろう。でも、そんなありがたみのないものを盗んでも、Nちゃんの心は満たされません。Nちゃんは、今度は鏡台の引き出しを開けてみました。1段目には何もなく、2段目にも何もありませんでした。半分醒めた気持ちで3段目の引き出しを開けると、そこには可愛いラッピングに包まれた、『金星のパラソル』というCDがありました。NちゃんはすぐにこれがAちゃんの宝物なのだと分かりました。Nちゃんは包みごと素早くかばんの中に忍ばせると、何食わぬ顔でみんなの輪に戻りました。そうして時間が過ぎ、お誕生日会はお開きになりました。

しかし後日、Aちゃんは大切にしまっていた『金星のパラソル』が無くなっていることを知ります。頭の良いAちゃんは、すぐに盗まれたのはあのお誕生日会の日だと気づき、クラスメイトから犯人をあぶり出すため、こんな噂を流しました。「あのCDは呪われている。音楽家の父が趣味で集めたCDの中に混ざっていた。興味を持った知人や友人に貸し出すと、決まってその人たちは突然死んでしまった。父はお寺に行って、『金星のパラソル』について相談した。すると和尚さんは、そのCDを私の鏡台の上から3番目の引き出しに入れて二度と開けないように言った」。Nちゃんはたちまち怖くなり、本当のことを言って返そうと決めました。放課後みんなが帰った後、NちゃんはAちゃんを引き留めて、自分の盗みを正直に告白しました。Nちゃんは泣きながら、「なんでもするから、どうかクラスのみんなには言わないで欲しい」と懇願しました。そんなNちゃんを見下ろしながら、Aちゃんは言いました。「じゃあ、そこの窓から飛び降りて」。絶望するNちゃんの顔を見て笑いながら、Aちゃんは続けます。「なんでもするんでしょ?」

Nちゃんは床にへたり込んでしまいました。あらゆる恐怖が頭を埋め尽くして、もう何も考えられなくなっていたのです。そしてNちゃんはふらりと立ち上がると、教室の窓の欄干に足をかけ、そのまま転落死してしまいました。

皮肉なことに、Aちゃんのついた嘘は、その瞬間、真実となってしまいました。

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『金星のパラソル』 花鳥あすか @unebelluna

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