異常物品収集管理室
@kai569
プロローグ・異常物品収集管理室
赤山ヒイロは、どうにも気分が優れなかった。ここ数日、コーヒーやらエナジードリンクで無理やり体を動かし続けたのが理由であろうが、それが分かった所でどうにもできない。なんとなれば、それは彼の所属に由来するものだった。
有史以来、人類は多くの国を興しては滅び、それを繰り返してゆく中で、数々の伝承もまた作り上げていった。多くのそれらが眉唾物、あるいはただの空想であったのならば、人類にとってそれ程幸福である事は無い。火のない所に煙は立たないのと同じ様に、何の原因も無しにその伝承が形作られることはあり得ない。聖剣、聖槍。或いは神へと至ろうとした者の遺した塔。
その全ては悉く異常性を持つ。ただ一度の使用で、既存の社会基盤が全てひっくり返るような、そんな異常性。人はそれらを畏れ、敬い、そしてその次に考えた。「これらは、争いのために使えばとてつもなく強力である」と。
斯くして二度にわたる大戦は起こった。その果てに、数ある異常な物体、現象、存在、それらを集め管理する組織ができた。
特に、知性を持たない異常物品の収集・管理を目的とした、異常物品収集管理室の第四課に赤山ヒイロは籍を置いている。
日常的に異常物品(単にアイテムと呼ばれることもあるが)を回収するだけなら、課の所属人員が赴くことは無い。だが、ここ数日間赤山はほぼ毎日外出しては物品回収作業に当たっていた。
というのも、その殆どが課の人員が定められた手順で、直接回収に赴く必要のある等級を持つ回収対象であるからだ。
「うう……むむん」
PCの画面とにらみ合いながら、昨日回収した物品4つの報告書を作成していると、右下に課長からの呼び出し、と小さなポップが出てきた。思わず唸るが、少しして、はてと首を傾げた。何か問題行動でもしただろうか。或いは、臨時休暇でも舞い込んできたのやもしれぬ。僅かな希望を胸に、彼はデスクチェアから立ち上がった。
「お前、新人教育しろ」
我課の女課長の放ったそんな一言に、赤山は視界がブラックアウトしそうになるのを感じた。思わず白目を剥きそうにもなったが、限界ぎりぎりの理性で何とか持ち堪え、重々しく口を開いた。
「……私めの勤務時間をご存知で?」
「勿論だ。今日は水曜日だな? 明日から次の日曜までお前には休暇をやる。だからやれ」
なんと気の利く上司であることか! それを聞くと俄然やる気が漲ってきた。さあどんな難敵であろうとかかってこい、と意気込んだ辺りで、女課長が再び口を開いた。
「新人は地下駐車場の4番公用車で待ってる。今回の案件はこれだ。車内で目を通しておけ」
「アイサー!」
冷ややかな目で此方を一瞥した彼女は、視線を落とし、ため息を一つつくと、手で何かを払った。早く行け、のジェスチャーだった。
いざ地下駐車場に到着すると、伝えられた4番公用車の前に、金髪の女性が立っていた。ギャル、と形容するには違和感があり、かと言ってそうで無いと言えば、それもまた少々の違和感が残る……そんな女性だ。
「君が新人?」なるべくフランクに、出来るだけプレッシャーを感じさせないよう、疲れを隠して明るく語りかけた。
「あっ、はい! 新山ユイって言います! よろしくお願いするッス!」
「おおう、元気があってよろしい」
なるほど、金髪で明るい後輩系の女子かぁ、と赤山は一人納得した。しかしパッと見たところ、まだまだ若く見える。少なくとも、こんな部署に来るような年齢ではあるまい。
「えーと、気分を悪くしたら申し訳ないんだけど、今何歳? 若く見えてね……」
「あっ、今年で21ッス!」
「大学はどうしたのさ?」
「進学しようと思ってたんですけど、ウチシングルマザーで、弟も2人いるもんで……」
「なるほど……それは何というか、気の毒に……ウチの職務内容は分かる?」
「ハイ! 物理法則をガン無視した物を回収するんスよね?」
「そうそう。概ねあってるよー」少しヘラっとした雰囲気で話しかけた。人によっては気分を害するが、まぁ彼女なら大丈夫だろうと信頼しての事だ。
車の運転席に乗り込んで、シートベルトを締める。助手席に目をやると、彼女ももうシートベルトを締めていた。
「じゃあ、今回担当する内容についても知ってる?」
「いえ、それはまだッス」
「なるほどなるほど……今回、俺と君が担当するのはちょっと新人にはキツイかもなんだけど……」
「そんな案件なんですか?」
少々伝えるのを躊躇うが、ここで言わねば彼女の身が危険にさらされるやも知れぬ。ともなれば、勿論言うべきで─結局、伝えることにした。
「『猿の手』だよ。願いを叶えるね」
異常物品収集管理室 @kai569
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