《約束の為に》

 大学生の俺ことカイには同い年の彼女アヤが居る。

 一緒に大学へ通い一緒の講義を受ける毎日が幸せだ。

 しかしそんな幸せも長くは続かなかった。

 卒業してしばらく経った頃、アヤは仕事中に倒れてしまった。

 診断の結果は“過労”だった。

 しかも倒れた拍子ひょうしに頭を打ったらしくベッド生活で寝たきりになってしまっていた。

 その日から俺は病院のベッドで寝ているアヤに会いに行くのが日課になっていた。


「今日会社でプレゼンが上手くいってさ俺の案件が通ることが決まったんだよ。このまま順調にいけば出世が近いかも」

「カイ君ならきっと大丈夫だよ」


アヤは酸素マスクをしながら一生懸命に話しを聞いて答えてくれた。


「俺、絶対出世していつか社長になってやるから。そしたらもうアヤみたいな苦しい人を出さない会社を作る」

「うん、頑張って。もし私が元気になったらそこで働こうかな?」

「おぉ、一緒に働こうぜ」

「約束ね」


 そう言ってアヤは弱弱よわよわしい手で俺の手を握った。


「また来るからしっかり休めよ」

「うんっ」


 そう言って俺は病室を出た。

 そんな生活を何日、何週間、何ヵ月も続けていた。

 アヤは回復するどころか少しずつ弱っていた。


「今日、新入社員の教育係に任命されてしばらく忙しくなりそうだよ」

「……うん」

「でもこれも平和な会社を作るためだから頑張らないと。明日は忙しくて来れないけど明後日は来るから」

「……わかった」

「それじゃまた明後日」


 俺は動かないアヤの手を握った。

 アヤは嬉しそうにほほ笑んだ。

 これがアヤとの最後の会話だった。

 あれから数十年が経った。

 俺はスピード出世し、その後会社を建て、今では誰もが知る大企業の会長となった。


「会長、着きました」

「あぁ、ご苦労様。ちょっと行ってくるよ」


 俺は杖を付きゆっくり車から降りた。

 ここ最近歩くのもままならない。


「無理なされずに。後は我々でやります」

「これは私の仕事だから。君たちはここで待っていてくれ」

「……わかりました」


 杖を付きゆっくり歩いて向かった先には一つのお墓があった。


「最近来れなくてすまないなアヤ。ここ最近体力も落ちてきてなぁ。歩くのが精一杯だよ。俺ももう少しでそっちに行くかもしれないけどその時はよろしくな。時間もあまりないからもう行くよ。もっとゆっくりしたいが……」


 俺はアヤのお墓をそっとでた。


「それじゃぁまたな」

「カイ君、またね」

「っ!? ……そんなはずは無いか」


 俺は線香を置きその場を後にした。

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