藤桜の短編集
藤桜
《そのファインダーから見た景色》
大学生の私には大切な彼氏が居る。
彼はカメラマンを目指していて色々な場所に行っては写真を撮ったりビデオを撮影をしている。
もちろん夢に向かって居る彼を私は応援して居た。
ある年の冬、彼は2ヵ月ほどカメラの修行に行くと言って日本を離れることになった。
一緒に行きたかったが私には大学があった為諦めた。
それに私の我がままで彼の邪魔はしたくなかった。
独りで過ごす毎日が長く感じた。
メールのやり取りはやっていたが彼の居る地域とは時差があるため電話は控えていた。
そんなある日。いつものように大学から家に帰ると彼の母親から電話があった。
彼が事故に遭って亡くなったと。
話しによると撮影スポットに向かうときの不慮の事故だったらしい。
その晩私は声が枯れるまで泣いた。
もう会えない、話すことも出来ない。
私はショックからしばらく大学を休むようになった。
彼との思い出の写真やビデオを何度も何度も見た。
そんな時、家に荷物が届いた。
宛先は彼からだった。
中を開けてみると1本のビデオテープと小さな箱が入っていた。
ビデオを再生してみるとそこには緑豊かな土地と彼が映っていた。
「誕生日おめでとう。驚いた? 毎日が多忙でなかなか電話出来ていないんだと思う。ビデオで悪いんだけど俺の気持ちを受け取って欲しくて。一緒に入っている箱を開けてみて」
言われるがまま一緒に入っていた小さな箱を開けるとそこには綺麗な指輪が入っていた。
「こんな形で悪いんだけど日本に戻ったら俺と結婚してください。それじゃ忙しいからそろそろ。返事考えておいてくれよ。じゃぁな」
嬉しさと悲しさが混じった涙が頬を伝って流れて行く。
私は指輪を付けた。サイズはぴったり。
彼がいつもいてくれるようで安心する。
後日、私は彼がいつも使っていたカメラを彼の母親から譲り受け旅に出た。
行く場所は今まで彼と巡った場所。
いつも見ていたファインダー越しの世界はこんな感じだったのだろうか?
今日も私はカメラを片手にいろいろな景色を見て回った。
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