帰宅後

「それじゃあ、さようなら。また文芸部室で会おう、もちろん、再び来る気になったのなら」

「は、はい。さようなら……!」

 そんな感じで最後までカッコイイ(本当にカッコイイ、ヤバすぎ)先輩と駅で別れて、帰路に着いた。

 ……本当は離れたくないとか思っていたけど、そういうわけにもいかない。まだ付き合ってすらいないし、なによりアタシたちは高校生なのだ。

 いや、高校生なら逆にお泊り会と称して夜中まで遊ぶことだってできるのでは……!?とか思ってしまうのはもう重症かもしれない……。

 そのまま己の限界まで妄想を重ねたときに、ちょうど家に着いた。

 限界までって言うと語弊があるかもしれないけど、かわいらしいものだと思ってくれていい……アタシは初心なので……。

「ただいまぁ」

「おかえり。遅かったね? 何かあった?」

「いや、あの……」

 決して悪いことをしたわけではないのだが……普段のアタシとはまったく違うことをしてきたので、なんとなく言いづらい。

「なに」

 それを察したのか、合わせてなかった視線をわざわざ合わせてくる姉が憎たらしい。

「ぶ、文芸部に体験入部に行ってて」

 思い切って言ってみるも……いや、そもそもあれは体験入部だったんだろうか? よく分からない。ただただアタシが先輩に振り回されていたような気もする。それはそれでいいんだけど……。

 ナニソレwってな感じで絶対に笑われると思っていたけれど、姉はへぇ!とちょっと機嫌良さそうな反応を示した。

「そうなんだ。いいじゃん。まじめな高校デビュー的な?」

「そういうわけじゃ……」

 いや、そうなのかもしれない。高校デビューで恋にデビュー、みたいな?

 うーん。改めて考えると、アタシからしてみれば奇跡みたいなことだ。

 でも、声だけで先輩に惚れてしまっただなんて、なんか、人には言いづらい……。

 とくに、姉には言いづらい。根掘り葉掘り聞かれるだろうから。それに答えられるほど、先輩のことを知らないし……いや、これから知っていけばいいんだ。

 とりあえず、届け出にサインを書いてもらわないと。

「なに、顔赤くして」

 そう思ったアタシより先に、姉がさらに言葉をかけてくる。

「あ、赤かった……!?」

「赤い。……外は寒かったでしょ。早くご飯食べてお風呂入りな」

「う、うん……!」

 指摘された顔の赤さを隠すように、一度部屋に戻って荷物を置いた。

 届け、どうしよう……。お風呂に入ってから、書いてもらえばいいかな? お風呂に入ってゆっくりしてたら、忘れないかな?

 そこで、私は先輩の声を思い出した。

『この世界は、私の掌の上だ』

 ときめきが止まらない。あの先輩のそばに、一分一秒でも長く一緒にいたい。

 届けを出すのを、忘れるわけにはいかない。

 そのままの勢いで、部屋からリビングに戻った。

「お姉ちゃん!」

「な、なに」

「文芸部入りたいんだけど!」

「えー……」

「な、なんで嫌そうなの」

 さっきはいいじゃんって言ってくれたのに!

「体験入部で文芸に興味を持つことは否定しないよ。でも、部活に正式に入るってなると話は別。長続きする?」

「す、するする!」

「そう言って死なせた金魚が何匹いると思ってるの……」

「そ、それとこれとは話が違うじゃん!」

 まさかこんなふうに否定されるとは思っておらず、アタシは頭が真っ白になる。

 やや放任主義的なところがあるお姉ちゃんなら、否定することなく書いてくれると思ったのに……!

「大体、アタシもう高校生なんだよ!?」

「なったばっかりでしょ。それこそ話が違うってば」

「なんでぇ……!」

「なんでもクソもない」

 先輩はここで覚悟を決められた人間なら説得をするのも無理ないだろうみたいなことを言ってたけど、普通に無理そうなんですが……!?

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