悪役貴族転生 何度繰り返しても救えなかった猫耳少女、追放ルートでしあわせにします
灯台猫暮らし
追放編
第1話 悪役貴族転生
白い空間。
境目がわからないほどの白さ。
「一ノ
創造神を名乗る、男かも女かも分からない、ぼやけた奴が言う。
俺はどうやら死んだらしい。25歳。少し短い人生だった。
「死因は?」
「ゲーム……『Code:Etherion』のやりすぎ」
そうか。朝から晩までゲーム。飯は最低限。ゲームの旅の友はエナジードリンク。十日ほど前から頭痛に不眠。動悸息切れ。それでもゲームを続けていたのだ。いつかやらかすとは思っていた。
だがプロゲーマーの俺にとって、死因がゲームは本望だ。
いい人生だった。
友達も家族もいない俺にとってゲームが全てだったから。
死んでいる俺を発見することになるだろう大家には申し訳ないことをした。
心残りはある。
死因となった『Code:Etherion』……『エセリオン』は俺の人生そのものを投げうってやりこんでいたゲームだ。
どうしても救いたいキャラクターがいた。
猫耳少女、ネイ。必ず死んでしまう、悪役貴族の従者。救えるルートがあるらしいのだが、俺はそれを達成することができなかった。いや人類は発売から半年経って、誰も達成していない。
それをクリアできなかったことだけが心残り。
創造神は俺を見て笑った気がする。ぼやけていてわからないが。
「もう一度、『Code:Etherion』の猫耳少女ネイを救うチャンスをあげます。ゲーム世界に転生を望みますか?」
こんなうまい話しがあるのか。だが願ってもない申し出だ。
本音では、彼女を救うまで死んでも死にきれないから。
「……はい」
「始めたい希望のキャラクターはいますか?」
「ありがとう。なら悪役貴族エドガー・ヴィクトルで頼みます」
「――えぇ。どうぞ。これがあなたの最後で、始まりの人生です。あなたはネイを救うためだけの存在。重々ご注意を」
創造主……ぼやけた奴が口が裂けるほどの笑みを浮かべた気がした。
……。
「俺、転生」
慣れ親しんだVR・RPGゲーム『Code:Etherion』の悪役貴族、エドガー・ヴィクトルの部屋。ベッドから起き上がり、床に立ち自身の身体を確かめる。成長度合いからいって12歳くらい。
魔法大学の試験に落ち、ヴィクトル家で劣等扱いを受ける前後くらいか。
猫耳少女を救うために俺が狙うルートはヴィクトル家からの追放。
そして北東の国で獣人の楽園をつくること。
そのために小悪党のように振る舞い、ほどほどに悪役を全うし、勘当される必要がある。
かつ、生きていけるだけの、彼女を守れるだけの、強さも得る必要がある。
アイテム集めと資金集め、レベル上げも必須。
すぐに従者のネイを連れて出ていってしまってもいいのだが、魔女を仲間にするための重要なアイテムが追放イベントで得ることができるのだ。
『破魔の籠手』、それ無しでは格段に難易度が変わる。
さっそく自身の部屋の中をあさる。
タンス、ベッドの裏。ありとあらゆる箇所を探していく。
金目の物を見つけるために部屋中をひっくり返す。
宝石ルビー(小)×5
5000G
宝石と金を手に入れた。宝石は隣町に売りに行こう。
「メニュー。アイテムボックス」
視界に慣れ親しんだアイテム欄が現れる。
同時に前方に黒い亜空間が現れた。宝石と金を中に入れると、アイテム欄に、宝石の所有数、金額が増える。
間違いなく、俺の慣れ親しんだゲーム世界。VRゲームだったからか違和感を抱かずに済みそうだ。より感覚が鮮明になっていることと、俺自身の睡眠不足から解放されたというポジティブ面が多い。
正直まだ死んだ実感もないし、これは普通のゲーム内のようにも思う。ここ半年ほどは現実世界を生きるより、このゲームにログインしていた時間の方が長いのだから当然なのかもしれない。
だがログアウト画面がないことが転生した何よりの証拠だった。
「メニュー。ステータス」
LV:5
HP:100
MP:5
SP:100
ATK:10
DEF:3
SPD:10
LUCK:5
GLS:0
GLS(グリッチシステム)はNPCとの敵対度……正確にはAI(ゲーム搭載の人工知能)との敵対率。同時に予想外の展開を生むバグ指数でもある。当面は追放されるために、この数値を30維持を目指さなければならない。上げ過ぎると、ありとあらゆるNPCに襲われる。理不尽な強さの敵も現れるため注意が必要だ。
その他の能力は低い。ステータス的には今の強さはゴブリンをタイマンで倒せるくらいだ。
普通に戦うと、悪役貴族、エドガー・ヴィクトルはかなり弱いのだった。
村人の若者ほど。
勇者を操る際、エドガーが敵として出てきても、簡単に倒すことが出来る。その従者である猫耳少女のネイがやっかいで、かつ殺さなければ先へすすめないほど、しつこい。VRであるため、魅力的なキャラであることもあって倒しづらい。彼女を殺す感覚が辛く、ゲームを辞めた人も続出したほどだ。
エドガーと共闘の道を選んでも、他の敵と戦う際、弱過ぎる彼を守るためにネイは死んでしまうのだった。
だが、エドガーにも利点がある。ステータスは低く紙装甲だが、魔眼持ち。あらゆるモノの弱点が赤く光って見える。赤色が濃い箇所ほど、クリティカルなダメージと硬直時間を相手に与える。さらにレベルの上昇で弱点の箇所が増えていくのだ。
つまりレベルが上がるまではプレイヤースキル頼りのキャラクター。上がってしまえば最強格。ただし相変わらずの紙装甲。
部屋をノックする音が聞こえる。
ステータスを閉じた。
ノックの後、部屋の扉を開け入ってきたのはNPCの脇役キャラクター、執事のジェイコフ。
執事にしてはがっしりとした男だ。
あごが割れている。ケツあごだ。
「エドガー様、なんです、この部屋の散らかりようは? 御乱心ですか? 出来損ないなのは知っていますが、部屋を汚さないくらいはできて欲しいものです。呼吸しているだけでできますよ。赤ちゃんですらできる。なぜあなたはそれができない」
俺は彼を無視して、部屋の隅にとことこ移動し、出来る限りの距離を取る。
ケツあごの端が赤く光っていた。魔眼によるウィークポイント探知。
このゲーム内では、ありとあらゆるモノにウィークポイントが存在する。
人やモンスター、モノや魔法。そこをタイミングよく叩けば戦闘を有利にすすめられる。
「エドガー様、なぜ、部屋の端に行くのです? なぜ肩をぐるぐる回して? 屈伸しているのです?」
「助走をつけて、私に向かって走ってどうした――ぶげらっ!」
さっそく執事のジェイコフにドロップキックを食らわせた。
俺はプロゲーマーの端くれ。これでもゲーム内の格闘センスには自負がある。ジェイコフの赤い光の部分、アゴにヒットしたことで、床の上に寝転がり、彼は失神寸前になった。クリティカルヒットの中のクリティカル。十秒間ほどのスタン状態。
前後不覚のジェイコフの横をてくてくと歩き、部屋の鍵を閉めた。
これで密室。邪魔は入らない。
「にゃにゃぜエドガー様――ぶげらっ」
「おらぁ!」
ジェイコフのケツあごを殴った。
床に寝っ転がるジェイコフに馬乗りになり、ウィークポイントをタコ殴りにする。
硬直時間の加算。
高LVのジェイコフも、なす術がない。
「やめてくださいエドガー様――」
「ご乱心やめ――」
「やめぇ――」
「ぶはっ」
「ぐぇっ」
「アイテムよこせ、殴るぞ」
顔面ボコボコになったジェイコフを脅した。
「もふ、にゃぐっでまず」
彼は震える手でポーションをくれる。
「ありがとう」
お礼は大事だから伝えた。
「ゆるじでぐれるんでぇじゅね」
ジェイコフが気弱に笑う。
「だがもっとだ」
ジェイコフは目を見開いた。
……。
殴りまくったら回復薬と金と執事の服が手に入った。
ポーション(小)×20
5000G
執事の服(少し臭い)
亜空間……アイテムボックスに収納。
ジェイコフはきらきらとした光とともに消えた。
俺は執事のジョイコフを倒した。
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