THE BRAZING WHEEL TRACKS
カルファーニアに言われるがまま向かったスパーダ寮棟のロビー。使っている生徒数に対して無駄に広々としているロビーの中。同行してくれるというダリエントの姿を探して、ルイーザはキョロキョロとあたりを見回していた。
ダリエント・スパルターク。彼はスパーダ寮3年生の主席生徒だ。直接面識があるわけではないが、入学式を始めとしたあらゆる学校行事の数々においてスパーダ寮のリーダー的立ち位置だった彼は、ルイーザの印象にもなんとなく残っていた。いればすぐに分かるだろう。
「やあ。キミがフランテ君だね?」
探していた人物らしき声が背後から聞こえ、ルイーザは慌てて振り返り挨拶をする。
「また教授に面倒ごとを押しつけられてしまったかと思ったけれど、キミみたいな有名人の初のバディ役に選んでもらえるとは光栄だね。足を引っ張らないように気をつけるよ」
言い方を間違えれば皮肉にしか聞こえないであろうセリフ。しかし、そんなセリフでさえも、目の前の好青年は嫌味なくさらっと言ってのけた。
「いや、私なんかそんな……」
恐縮しっぱなしのルイーザ。
「そう緊張することはないよ。もちろん過信は禁物だけれど、キミはそんなタイプにも見えないしね。ほら、教授だって言ってたんじゃないかい?
「あ、惜しいです。
「あー、今回はそっちできたかー」
初任務を前に内心緊張していたルイーザであったが、ダリエントのアイスブレイクのおかげもあってか、いくらか緊張がほぐれてきたようだ。ルイーザの表情がいくらか柔らかくなったことを確認すると、ダリエントは次の言葉を続けた。
「場所は確か東2番街のA地区だったかな? いつまでも油を売っていると教授に嫌味を言われちゃうからね。そろそろ行くとしようか」
二人は杖を取り出し、「
***
「教授もそろそろ老眼になってきたかな……? これが2~3体に見えるとはね」
上空に広がる光景を見上げ、ダリエントは肩を竦めてため息をつく。
広がるのは何の変哲もない雲一つない青空。ただ一カ所。空をそのまま引き裂いたように広がる黒い裂け目の存在を除いて。裂け目からは悪魔たちが次々と飛び出している。胴体は人間ほどの大きさのハチやムカデ・クモなど様々なタイプのものがいるが、頭部だけは決まって歪んだ人間の頭骨のような形をしている。
「10匹は確実にいますね……」
異形の軍団を目の当たりにし、固唾を飲みながら杖を構えるルイーザ。父の腕を奪った悪魔など、より強力なものには今までも出会ったことはあるが、いざ自分が矢面に立つのはこれが始めてだ。
「
ダリエントの声かけののち、ルイーザは深呼吸を一つ。そして、彼女めがけて真っ直ぐ飛びかかってくる悪魔たちにも目もくれず、杖を振り上げ呪文を放った。
「
そう呪文を唱えたルイーザの杖先から、直径5メートルはあろう巨大な炎の輪が現れる。輪は空中を縦横無尽に高速で駆けずり回り、軌道上の悪魔たちを容赦なく轢き潰していった。踏み潰されて圧死する者もいれば、かろうじて即死を免れた者も軌道上に残った炎の轍によってその身を焼き尽くされていった。10体以上はいたであろう悪魔たちはあっという間に消滅し、それに呼応するかの如く、宙に開いた裂け目も閉じ、元通りの空へと戻っていった。
そんな一部始終を唖然とした様子で眺めていたダリエント。しばらくした後でようやく口を開いた。
「いやはや。ものすごい力だね。さすがは悪魔祓い就任の最年少記録を更新した天才少女だ」
「この杖の力ですよ。私なんかまだまだ、父の真似事をしているだけに過ぎません」
「そう謙遜することはないと思うけどね。たとえ高尚な絵の描き方を知っていても、必要な技術や画材がなければ真似することすらできないだろう? たとえ真似事だったとしても、それも立派なキミの力だよ」
「あ、ありがとうございます」
誇るわけでもなく杖に目をやるルイーザの肩を、ダリエントがポンと優しく叩く。
「ただ……次からは捕獲用に一匹くらい残しておいてくれると嬉しいかな。全滅させちゃうと『貴重な研究サンプルを全滅させるとは何事だね。この蛮族どもが』って教授がうるさいんだ……」
「す、すみません……。次からは気をつけますね」
二人は顔を見合わせて苦笑いをしたのち、報告のためにカルファーニアの研究室へと戻るのであった。
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