第19話
それから私とセラは本屋を出て、ひっそりとした夜の街を歩いていった。地獄の鬼と新米天使、人ならざる者と同族以外で出会うのは久しぶりだった。夜が更けるにつれて人間たちは街を離れていく。革靴の足音が消え去った街には微かに虫のさざめきがあちこちから聞こえて、むしろ賑やかさを増していた。あの本屋でした他愛もない話の余韻はしばらく消えることはない。セラは表情の動きが豊かで、暗闇に笑顔がよく映えた。
「地獄とは聞きしに勝る恐ろしいところなのですね」
「天国とはかくも退屈なところだな」
嫌みたらしくそう言うと「素敵なところです」と微笑んだ。
「地獄の亡者の方々は罪を償いますとどうなりますの?」
「魂は浄化され再び輪廻転生される。だが大概は途中で無に戻る」
「無ですか?」
「うむ。苦しい罰を受け続けた亡者が自我を失うとそのまま消滅する。そうなれば二度と転生はできない」
「貫徹様もその亡者の方に罰を与えるのですか?」
「罰を与えて生前の罪を清算させ再び清らかな魂にかえすそれが私の仕事なんだ」
私は白い歯を見せて笑った。
「大変な仕事ですね」
「そうでもないさ、そう言えばセラはなぜ浮世に?」
「セラもお仕事です。でも失敗しちゃって」
嘲るようににつぶやく。私は察してそれ以上は追及しなかった。
「貫徹様これからどうされのですか?」
セラに訊ねられ私はそのへんで夜を明かすとだけ答えた。
「でしたら、あの今晩セラの部屋にいらっしゃいますか?」
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