第5話

「先輩ここにおられましたか。ずいぶん捜しました」


 視界に入ってきたのはラーメンではなく新米獄卒の鳥奴火うなびだった。等活地獄で働く獄卒でありとにかく真面目で一切の妥協も許さない性格なのだ。故に融通が利かないのが玉に瑕。そんな鳥奴火が等活地獄から二階層も下にある衆合地獄中を駆け回って私を探していたとしたら嫌な予感しかしない。


「閻魔大王様から召集がかけられました。至急先輩に王宮に来て欲しいとのことです」


「そうは言ってもまだ昼休憩中だし飯食べてからじゃダメ?」


「何をバカな、至急と言われたらいますぐ行くのは当然です。先輩に王宮に行ってもらわなければ僕の沽券にかかわる」


 ――これだから役人は嫌なんだ。


 そう口から出そうになったが私はその言葉を飲み込んだ。そんなことを言った日にはマニュアル通りに業務をこなすのがなによりの生きがいと感じている鳥奴火に何を言われるか想像がつく。


 仕事に関しては我孫子と同等いやそれ以上に鳥奴火は面倒くさい。


「行ってきなさいよ。鳥奴火ちゃん困ってるんだから」


「まだ飯……」


「あんたの分は鳥奴火ちゃんに食べてもらうから」


「ちょっとまて、私の意見はないのか」


 私は勢いそのままに机をたたき腰をあげて抗議する。


「お言葉に甘えます。僕もまだお昼食べてないので」


「お前もなにをしれっと腰をおろしているんだ」


「僕だって先輩を捜せと言われて通常業務の半分も進んでいないのです」


「ほら結局あんたのせいじゃん」


 理不尽極まりない。


 そんなことをいったら私だって今日中にまとめなくちゃいけない仕事がある。しかし話が勝手に進められているのではもはや仕方があるまい。私は椅子から腰を上げ渋々閻魔大王の王宮に向かうことにする。


「ちょっと待ちなさい」


「まだ何かあるのか?」


「昼ごはん代は置いていきなさい」


 理不尽極まりない。

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