それは想いが重なるシルエット

古芭白 あきら

第1話 それはヒロの想い

 真っ赤な夕陽ゆうひが、河川敷かせんしきを並んで歩く俺と美月の影を落とす。


 チラッと隣を歩くその美少女を盗み見る。


 俺と同じ高校のブレザーに身を包んだ美月は、長くサラサラした黒髪に、綺麗な睫毛まつげと大きな瞳の持ち主だ。


 俺と彼女は幼稚園から10年以上の付き合いになる。いわゆる幼馴染というやつだ。


 幼稚園で初めて会ってから美月とは何かといつも一緒だ。

 小学校でも、中学校でも、そして高校生になった今でも。


 美月との距離はずっと『幼馴染』だった。

 これからも、ずっとそうだと思っていた。


 歩くたびに前後に揺れる美月の白く華奢きゃしゃな手が目に留まる。

 少し伸ばせば届くほど近いのに、美月の手がとても遠く感じる。


 斜め後方から射す夕陽に引き伸ばされた、俺と美月の影が人の形を成す。二人で並んで歩けば影法師も同じく動く。


 美月に気づかれないように手を差し出せば、影法師の手が美月のそれに重なった。


 ――それは俺の想いを重ねたシルエット



「ヒロ、どうかしたの?」

「え?」


「ずっと黙ったままじゃない」

「そ、そうか?」


「そうよ……最近、ヒロはずっとそう」

「そんことないさ……」


「ねぇ、ヒロは私といるのは……イヤ?」

「何でそうなるんだよ」


「だって、いっつもヒロったら黙ってしまって」

「それは……」


「幼稚園からずっと一緒だし、私にはそれが当たり前になっていたけど……ホントはヒロは男友達とかと遊びたかったんじゃない?」

「それは……そう言う美月はどうなんだよ?」


「私?」

「ああ、美月は俺と違って可愛いし、モテるしさ……俺なんかに傍にいられて迷惑だったりしないのか?」


「ぜんっ、ぜん」

「えっ!?」


「迷惑なんて思ったことないし、私はヒロが傍にいてくれて嬉しいよ!」

「ホ、ホントか?」


「ホ〜ント。ヒロとは幼稚園からの腐れ縁だし、もうずっと一緒にいるのが当たり前みたいなもんだもん」

「そ、そうか……」


「ヒロといると気兼ねしないし、落ち着くって言うかホッとするの。だけど最近のヒロはつまらなそう」

「そんなことないさ」


「そう?」

「ああ」


「ふふふ……私はね、ヒロと一緒にいる時間が好きなの」

「え、あ……そっか……」


「なによもう!ヒロは違うの?」


 少しむくれて問いかける美月に今こそチャンスだと思った。

 ここで言わなきゃ男じゃねぇ!


「それは……ち、ちが…わ……な…ぃ……」

「よく聞こえな〜い」


「何だって良いだろ!」

「……もう!」


「何だよ」

「知らない!」


「そんなに怒んなよ美月」

「怒ってない」


「怒ってるだろ。こっち向けよ」

「いや!」


「機嫌直せよ美月」

「ふん!」


「……悪かったよ」

「何が悪いと思っているの?」


「それは……美月の質問にきちんと答えなかったから?」

「違うわ」


「じゃあ……何だよ?」

「分からないでしょ?」


「そりゃあ言ってくれなきゃ分かんないさ」

「そうよ……言ってくれなきゃ分かんないよ」


「それは……」

「言葉にしてくれなきゃ分かんないよ……ヒロがどう想っているかなんて」


「俺は……俺は……」

「……うん」


「お、俺は美月のこと……その……ぅぁ」

「……うん」


「だから俺は……美月のこと……その……す……す、す……」

「す?」



 これまでも会話からきっと美月も俺の事を……


 だから――


 言え!

 今こそ言うんだ!

 美月が「好き」って言うんだ!


 俺ならできる!

 頑張れ俺ガンバレ!

 俺は告白できるやつだ!


 言うぞ、今から言うぞ、よし言うぞ!

 好きだ、好きだ、美月が大好きだ!



 ……だけど。もし違ったら?


 美月は俺に好意を持っていると思う。


 だけど、それが異性として意識していると断言できるのか?

 ただ幼馴染として俺を好きだと思っているだけじゃないのか?

 好きだって言ったら、もう一緒にいられなくなるんじゃないのか?


 ダメだ分からねぇ……考えれば考えるほど不安になる。


 ダメだ!

 やっぱり言えねぇ!


 ――ポンッポンッ……


 その時、音を立てて大きく弾みながら、こちらにボールが飛んできた。そのボールは跳ねて方向を変えながらも美月の方へ流れてきたので、俺は右手を伸ばしてパシッと受け止める。


 離れた所でグローブをしている二人の小学生がこっちに手を振っていた。


「すみませ〜ん」

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