第8話 ランク制コスプレイヤー
安心の我が家に到着すると、冷蔵庫に肉やら何やらを突っ込むのも早々に、俺は出現させたステイタスボードをしっかと握りしめて血眼で隅々まで調査を開始した。
ウチの魔王は三つで百円のプリンを食べて喜んでいる中身園児だが、どうやら他にいる魔王は古き悪きヤンキー思考が大半であるようだ。いや一部は特撮好きが混じってそうだが。
まさか二日目にしてあんな代理戦争が起きてるとは……。
裁縫が得意なだけの技能では、あんなの巻き込まれたら死んでしまう。
せめてデッド・オア・デッドからデッド・オア・アライブに引き上げられる要素の欠片くらいは見つけなければ。
しかし『技能』の項目はあまりにも無情。
特別技能は一行から変わらず。裁縫が上手くなるだけ。
他の項目と同じようにパネルをタッチしても変化なしということは、コレっきりだってことだもんな。
「終わりだ――」
「ん? 妾のぷりんが欲しいのか? やらんぞ」
「言ってねえよいらねぇよ!」
プリンが欲しくて天を仰いだワケじゃねえんだわ。
あんなにトンデモ能力者が蔓延っているのに裁縫しかできそうにない俺に絶望している。
黄昏れている俺に、魔王が言う。
「なんじゃ、まだステイタスで遊んでおるのか。さっさと技能を有効化せいよ、まだるっこしい」
「……待て、有効化ってなんだ?」
「なんだと言われてもな……。行使しなければ技能に限らず、何事も非活性状態にあるのは当然じゃろ? 有効化して実際に使いこまねば本質の一端すら見えてこない」
魔王の言葉はまさしく救いの糸。
天より垂らされた一筋の光。
最終的に魔王が神さまに進化するのも納得の導き加減ではないだろうか。
今の俺はサプライズボックスのガワだけ見て「中身カスやん」と嘆いているモンスターカスタマーに過ぎないとの指摘には強く胸を打たれた。こき下ろすならきちんと中身まで精査してからでなければならない。
中を開けてみるまで分からない、それがサプライズボックスだろう!
「……と、気を持ち直したのはいいが、有効化とはどうすれば?」
「おぬし独自の能力などよう知らん。それっぽいことをやってみろ」
ごもっとも。
めんどうくさがりの割には色々と助言くれるな。雑なのは愛嬌として。
片手間にできることだから別にどうでもいいのかもしれない。
「それっぽいこと……こんなことなら裁縫セットでも買ってくるんだったな」
服とは出来合いを買うもの。その認識が強くて頭からすっぽ抜けていた。
そうか、この技能を活かせるようになれば、イチから服を作れるのか。
つまりファストファッションではなく、俺好みピシャリの服を自ら作成して魔王に着せることも可能ということ――!
なんだかヤル気がもりもり湧いてきたな。
「さすがにハサミはあるから、これで糸くずを切ってなんとかならんか」
「やってみればよかろ」
いそいそと引き出しからハサミを持ってきて、ボロいワイシャツの胸ポケットの裏地から綻んでピョンと飛び出した糸くずをちょきんと切ってみる。
そして切った後で失敗したな、と気付いた。
布地に近いところで切ってしまったので、またすぐに解れてしまうだろう。せめて結び目を作ってから切るべきだったかも。
「有効化したか」
「え? ……あ」
言われて、さらに気付く。
ほとんど縫製に縁のない自分が、よくも失敗が分かったな、と。
ミスったと勘付いたのは朧げな感覚で、切った痕を見て失敗の内容を悟った。
ステイタスボードを開いて見ると、技能のカテゴリがバキベカに点滅を繰り返しながら光り輝いていた。
活性化しすぎだろ。ミラーボールでももう少し静かに光るぞ。
インターネット老人会御用達、七色の原色光が背景を流れていく派手さに目をやられながら、自己表現の激しい『コスプレイヤー』技能をタップした。
すると、主張の激しかったボードが途端に役目は終わりとばかりに、スンと静かになった。アップダウンも激しいな。
「な、なんじゃその妖しいステイタスボードは……」
「こういうもんじゃないのか?」
「そんなはずがなかろう。おかしいぞ、おぬしの気色悪い七光りするボード」
「半分はあんたの成分で作られてることを棚に上げた言動、やめてもらえます?」
随分と嫌なオンリーワンであることが判明したところで、俺の特別技能『コスプレイヤー』についても隠されていた能力が判明した。
「ふむ……『ランク1:コスプレ時、コスプレ対象の能力を取得(小)』。確かにこういう能力だってんなら、『コスプレイヤー』と言えるか」
はちゃめちゃに有能な同僚と同じ格好をしたら、同僚の能力を借りられる……という認識で合っているはず。
駅前で見た他の魔王が従者に付与した能力を見るに、もっと拡張性の高い技能である可能性も高い。
アニメやマンガのキャラを文字通りコスプレしたら、キャラの使える魔法とか技が使えるようになるとか……。夢が広がり過ぎる。
ごろごろと汚い床を転がって寄ってきた魔王が着目したのは別の点であった。
「ランク制か。大変だろうが、堕落生活のために頑張って育てろよ」
数字が付いている以上は2、3と成長していくことは理解できる。
しかし、魔王の言い方だと他にも種類がありそうだ。
「ランク制、って名前がついてんなら他にも制度があるわけか。大変の尺度が分からんのだが、比較対象を教えてくれよ」
「うむ。技能の成長曲線はおよそ四パターンに分けられる」
思ったよりも真面目な口調で講義が始まった。
「まずは付与時から成長をしない『絶佳』系統。それから短期間で効果少上昇を繰り返す『レベル』系統、長期間で効果拡張を繰り返す『ランク』系統。最後に条件達成で技能自体が進化する『覚醒』系統がある」
知ってるー。真剣ゼミナールで出てきたところだわ。
「その中だと『絶佳』と『覚醒』にヤバい能力者が多いんだろ」
「使いこなせればな。それに『覚醒』系統は『覚醒』するまでに死ぬやつが多いしの」
とにかくその辺とは関わりを持たないのがベターだろう。
「かと言って『レベル』と『ランク』が弱いとか役に立たぬワケではないぞ。『レベル』はとにかく成長が早いしのう。本人の素養にもよるが頭打ちになる限界が遠ければ遠いほど、他の系統とは比較的楽に強くなっていくから早々に手を付けられん存在が出やすい」
「ランク系統はどうなんだ?」
「おおよそ『ランク』系統は対応力がある、という感じかの。『ランク』が上がると出来なかったことが出来るようになる場合が多い。『レベル』の成長が本人の地力底上げになるとしたら、『ランク』は技能自体の成長というのが近い表現か」
大体『絶佳』以外のパターンも、育てば強い、の項目に入るワケか。
育たなくても強い技能になりがちなのが『絶佳』で、順を追って強くなるのが『レベル』と『ランク』、突然真価を発揮するのが『覚醒』と。
欲を言うなら『絶佳』で楽をしたかった。
だが、こんな突然生えてきた技能を万全に使いこなすセンスなどブラックサラリーマンに期待できるはずもなく。
どうせ大事故を起こして御用になるのが関の山だろう。
それを考えれば、段々と成長してくれる技能で良かったかもしれない。
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