15 『たずねる』『相対性理論』『単刀直入』

「お忙しいところ申し訳ありません。少し尋ねることは可能でしょうか?」

「叔父さん、何でそんなにビビってるの?」

 私が親戚の集まりでも大学受験の勉強をしているとはいえ、そこまで警戒しなくても。

「だって受験生の貴重な時間を取らせるの悪いからね」

 叔父さんはいい。他の親戚と違って、彼氏の有無とか恋愛について聞いてこないし、勝手にアドバイスもしてこないから。

 勉強は元々好きだけれど、親戚の集まりでわざわざ参考書を開こうというほどではない。私は、恋愛なんて時間の無駄だと思っている類の人間だ。それを言ったところで年長者達は理解してくれないから、こうして勉強に集中することにしている。

 理解がある叔父さんが声をかけてくるのだから、つまらない話ではないのだろう。

「何か質問? 時間を無駄にしたくないから、単刀直入に言ってくれる?」

「ありがとう! うちの子に、相対性理論を超超超簡単に説明してくれる?」

 叔父さんは自身の後ろに隠れていた女の子を私の前に押し出した。十個下のいとこ。前髪を上げていて、利発そうなおでこがよく見える。

「この前アインシュタインの伝記読んだらしいんだけど、俺じゃ全然分からないから……。テストの解答みたいなのじゃなくていいからさ。お願い!」

 まず特殊相対性理論と一般相対性理論とあってね、とかいう説明を求めているわけではないだろう。

 子供に分かりやすく、且つ具体的に。考えをまとめて、期待に輝く丸い目を見つめる。

「好きな人といる時間は短く感じて、嫌いな勉強をしてる時間は長く感じる。これが超超超簡単な相対性理論」

 この例えだと私には当てはまらないけれど、一般的にはこちらの方がいいだろう。

 小さな女の子はうなずいた。どうやら納得したらしい。叔父さんはというと、確実に何も分かっていないだろうけれど拍手をしている。そして「邪魔したね」と言って、我が子を小脇に抱えて脱兎のごとく自分の席へ戻っていった。

 これで無駄な時間は最小限で抑えられた。勉強に専念できる。


 高校を卒業するまで、何度告白されただろう。最初、私にとって恋愛は時間の無駄だからと言って断ったのに。めげないメンタルの持ち主だ。そのうち私の方が折れてしまって。

 でも、ずっと断っていた手前、素直に告白を受け入れることができなくなってしまった。だから、高校を卒業したら付き合うという条件を出した。それまで好きでいてくれるとは正直思っていなかったけれど。

 『卒業証書』と書かれたファイルを誇らしげに見せてくる彼女に言った。

「時間を無駄にしたくないの。単刀直入に言ってくれる?」

「好きです。私の恋人になってください」

 彼女を好きになってしまうまで、時間をこんなに長く感じたことはなかった。彼女が感じていたほどではないとは思うけれど。

「私もあなたが好き。よろしくお願いします」

 私は彼女の前髪を上げ、利発そうなおでこにくちづけた。

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