13 『育ち盛り』『ロックオン』『問題』

「それが本当にいい食べっぷりでさ。さすが育ち盛りって感じで。だから、食べろ食べろって言っちゃったのよ」

「それで見栄を張った結果お金がなくなったってわけね? あんたがバカだってよく分かった」

 車を運転する恋人が眉間にしわを寄せてため息をつく。スレンダーな体つきで、モデルみたいに常に姿勢がいい。特に運転する姿がかっこよくて好き。かっこいい女大好き。

 赤信号で止まると、細い指が忙しなくハンドルを叩き始めた。イラついているらしい。

 去年まで勤務していた高校の教え子数人とたまたま再会した今日の昼時。これからランチだからと誘われてご一緒したけど、上手い感じに私が全額支払うことになっていて。財布に入っていた現金が一瞬で飛んでいった。

 その後どこかに行こうという気も起らず、恐る恐る彼女に電話して迎えにきてもらった。そりゃイラつきもするか。

「金づるとして使われたわね」

 生徒に人気がある自覚があっただけに少しショックだった。

「でも成長した姿を見られてうれしかったから結果的に良かった。背が急激に伸びてたり――」

「発育も良くなってたり?」

「……私、そういうハラスメントはダメだって教える立場なんだけど」

「でも思ったでしょう?」

 言い返せない。胸元を見て眼福だったとか。

「あーあ。教育委員会に報告しちゃおうかしら。この女教師は女生徒の胸を見て興奮してます。若い女の子を間近で見たいがために教師やってます。女の子達ロックオンされてますよーって。問題教師ね?」

「大問題だよ!」

 ひどい言われよう。

 確かに私は女性が恋愛対象だし女性の体で興奮するけど、さすがに教え子は対象外だ。教師であることと性的指向は全く別の話。男子校に赴任したって全力で仕事する所存だ。多少モチベーションの違いはあるかもしれないけど。

 そもそも。隣にこんなにかっこいい恋人がいるのに他に目移りするわけがない。まったく何を言っているんだ。心外だ。

「いや、あのね? 若い女の子が好きだから教師やってるわけじゃないからね?」

「じゃあ、おっぱい大きくても見ないのね?」

「それとこれとは別」

 反射的に答えてしまった。見てしまうものは見てしまう。女好きの本能というか。

「変態」

 冗談ではないトーンだった。

 信号が青に変わる。彼女は指の動きを止め、しっかりとハンドルを握り直した。

「捕まるとかホントやめてよね?」

 ため息交じりに言って、姿勢正しくアクセルを踏んだ。

「私の胸で満足しててよ。いくらでも見ていいんだから」

 私は怒られないように横目で彼女を見る。不機嫌な赤い顔と控えめな胸。

 ああ、なんだ。教え子にヤキモチを焼いていただけか。かっこいい彼女のかわいいところ大好き。

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