第62話 レイバックを背負う者

 武術の授業は、急遽Aクラスとの模擬戦をすることになった。クラス対抗の模擬戦というよりも、Aクラス選抜対レイバック辺境伯領出身者の戦いだ。叔母様は私達の勝利を確信しているようで、余裕の表情で私達の元へ歩み寄ってきた。


「奴等は兄上が根回しをしたなどと、根拠の無い言い掛かりをつけてきた。レイバックを背負う者として絶対に許せることではない。あのクズ共に身を持って判らせてやるんだぞ!」

「「はい!」」


 ランベルトはお父様を侮辱した。自分のことなら我慢できるけど、家族を侮辱されたことに、私はかなり腹が立っていた。ファビオ達も私と同じように怒っているようで、叔母様の言葉に対して力強く返事をした。


「サンドラ、カルビン、アンドレアス、ムーキー、チェイス、ファビオ、最後にリディの順で行くからな!」

「「はい!」」


 Sクラス側は叔母様の一言で、模擬戦に出る順番が決まった。ランベルトはそれを聞いてから模擬戦に出る生徒に声をかけた。


「リリア、ケーシー、アーロン、ジェイソン、シルベスタ、グラント、そしてガウェイン殿下の順にいきますよ」


 リリアをサンドラに、私にガウェイン殿下を当てたことで、聖女候補と第二王子の2人をSクラスへ確実に上げたいのだと判った。でも、今回の模擬戦で勝つ可能性があるのは、ガウェイン殿下だけだろう。理由は、サンドラの実力は護衛の4人と比べても遜色ないことと、リリアは武術ではなく魔術タイプだからだ。



「出場者は決まったな。では模擬戦を始めるぞ。サンドラとリリアは前へ出て来い」

「「はい」」


 模擬戦の審判は叔母様がするようで、第一戦目の生徒の名前を呼ぶ。『はい』と返事をすると同時に2人は前に出て、サンドラは双剣を鞘に残したまま、リリアは短槍と小盾を手にして構える。


「では、模擬戦を始めろ!」


 初手は双剣を手にしたサンドラで、一気に間合いを詰めると同時に抜刀する。双剣は抜刀から始まる圧倒的な手数により、反撃の隙を与えないのが真骨頂だ。


『ガッ、キッ! ガキッ、キィン!』


 リリアは素早い攻撃を難なく防ぐ、武術タイプとは思えない動きに違和感を覚える。剣撃を防ぐ動きを凝視すると、盾を持つ腕より先に盾が動いてることに気づいた。


(あれは、自動防御イージスの効果が付与されている?)


「リリアは自動防御イージスが付与された盾を使ってるわ! 模擬戦でそんな物を使うのは不公平アンフェアよ」


 私がこの模擬戦は公平ではないと主張すると、ランベルトは薄ら笑いを浮かべながら反論する。


「今回の模擬戦にそんなルールは設けていませんよ? 始まってから都合が悪いからといって、不公平アンフェア等と言われても困りますな。ねぇ、レイバック女史?」

「そうだな、この程度なら全く問題ない」

「お、叔母様!」


 私は納得がいかないので、さらに抗議を続けようとすると、ファビオが私の肩に触れながら笑みを浮かべながら口を開いた。


「僕達はレイバックを背負う者だから大丈夫だよ」


 その言葉を聞くと、心の中にあった『不安』が払拭されたのだった。



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