第60話 自己紹介③

 フランチェスコが席に着いた。


 次は私が自己紹介をする番だ。順番は判っていて考える時間はたっぷりあったのに、何を言うのか整理ができていなかった……。


(マズイ……、どう言えばいいんだろう?)


 頭の整理ができずに焦りながら席を立つ。何を言えば良いのか判らず、必死に言葉を並べて自己紹介をする。


「あの……、リディアーヌ.レイバックです。取り柄のない平凡な者ですが、1年間よろしくお願いします」

『パチパチ~』


 レイバック辺境伯領出身のサンドラ達が拍手をしてくれたけど、自分でも下手な自己紹介だと判ってるので恥ずかしく思った。隣のファビオに視線を向けると、『ニコッ』と笑みを浮かべながら頷いてくれたのが、せめての救いだった。そんな中、エリックの冷めた声が教室に響いたの。


「次席合格者が、自分は平凡だとか言われると、嫌味にしか聞こえないな」


 エリックは、私の言った『平凡』という言葉が気に入らなかったようで、そのことを少し嫌味っぽく言った。気をつけてはいるけど、人を不快にさせる『無能な我儘娘』の部分が出たようなので、謝罪をしようと思い顔を向けて口を開いた。


「えっと、不快に思ったのなら……」

「リディ、そんな奴を相手にする必要はないんだよ。無能な者が嫉妬で吠えただけなんだからね」

「でも……」


 私が口を開くと、直ぐに叔母様が間に入ってきて、相手にするなと言ってきた。それでも不快にさせたのは私なのだから、謝罪が必要だと思った。そのことを伝えようとしたら、アルバロンが叔母様に同調するように続いた。


「本当に、負け犬の遠吠えとは見苦しいものですね。お前のような者は例え200%の力を発揮しても、辺境伯令嬢には届かないのだ。そんなことも判らないなら、この学園から去ればいい」

「うっ……」


 叔母様とアルバロンから厳しい言葉を向けられたエリック、その表情は青褪めていた。私が周りのことを考えずに発言したことが、この状況を招いてしまったみたい、私は根っからの悪役体質なのか? 入学早々にクラスメイトを傷つけることになってしまった。これから発言する時は十分に気をつけないと、巻き戻り前と同じように悲惨な結末を迎えることになる。


(もっと、行動と発言には気をつけよう)


 そんなことを考えていると、最後にファビオが席を立って自己紹介を始めた。


「ファビオ.レイバックです。私は婚約者であるリディを護る剣と盾だ。この言葉の意味を理解できずに婚約者に迂闊に近づく者は、全てを排除する。以上です」


 ファビオが過激な自己紹介をすると、サンドラ達は『ウンウン』と頷いていた。流石に過激すぎたのか? 叔母様がファビオに向かって口を開いた。


「ファビオ、よく言ったと褒めておくが、排除は痛めつける程度だからな? ウッカリ殺してしまわぬように注意しておけ」

「はい、肝に銘じます」

「一通りの自己紹介は終わったな。少し休憩をとってから授業を開始する。今日は武術の授業だから着替えを済ませたら演習場へ集まるように」

「「はい!」」


(えっ、良いの? ダメじゃないの?)


 そんな感じで、クラスメイトの自己紹介を終えると、高等科学園での本格的な授業が始まるのだった。しかし、ファビオの発言は少し過激で戸惑ったけど、私を護ると言ったことは、素直に嬉しかったの。

 


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