第39話 治癒の使い手達②

 全員が注目するなか、リリアはアルバロンの傷に手を近づけて超治癒ハイヒールを唱えた。


「傷を癒せ超治癒ハイヒール!」


 前者3人とは違い、アルバロンの傷は瞬く間に閉じていき、傷跡が残ることなく元の状態へと戻った。自分でも完璧な治癒ができたと思ったのか、リリアの表情から笑みがこぼれていた。


 治癒を施されたアルバロンは、傷跡を確認しながらリリアの治癒を評価する。


「見事な治癒だが、超治癒ハイヒールの領域には足りていないようだ。学園でしっかりと修練を積めば、素晴らしい使い手になれるだろう。研鑽に励みなさい」

「えっ、は、はい」


 アルバロンの評価に対して、リリアは表情を強張らせながら返事をして席に着いた。よほどの自信があったのか、席に着いてからも表情は強張ったままだった。


「次は、フランチェスコ.ヴァレンティ」

「はい、治癒ヒールで適性値は8です」


 フランチェスコが適性値を伝えると、リリアは一瞬だけ眉間にシワを寄せた。自分より高い適正値は同世代には居ないと思っていたみたい。ヴァレンティの姓を名乗ったのだから、ブリアント教皇の血筋だと判るので、高い適正値は当たり前だと思うけど、彼女はそれを知らないのかな?


 フランチェスコは傷に触れないまま、両手を傷に近づけて包むように治癒ヒールを唱えた。


治癒ヒール


 これまでの治癒ヒールとは違って、傷口が少し発光してから徐々に光が消えていくと、傷は綺麗に消えて元の状態に戻っていた。


(ママと同じ治癒ヒールだ!)


「これは素晴らしい!流石はヴァレンティ家の令息ですね。治癒ヒールというより超治癒ハイヒールに近い効果のようです。既にこの域にあるのなら、学園を受験する必要なんてないと思えますが、何か事情があるのでしょうかね?」


 アルバロンは少し探るような言い回しで質問をする。確かにあれだけの技術があるのなら、自国で研鑽を続けるべきだと思ってしまう。


「とんでありません。私はまだまだ未熟者で、高等科学園で文武をしっかり学びたいと思っています」


 フランチェスコは平然と応えると、席に戻る時に『チラッ』と私に目を向けたように感じたけど、多分その先に居るリリアを見ていたんだね。ガウェイン殿下を虜にする美貌だから当たり前だよね。


「では、最後はリディアーヌ.レイバック辺境伯令嬢」


 他の受験生は名前しか呼ばなかったのに、私の時は辺境伯令嬢まで付けて呼ぶなんて、これは周りの視線が痛い……。


「はい、治癒キュアで適性値は1です」

「「ふっ」」


 受験生の中から笑い声が漏れた。本当の適性値は秘匿することになってるし、巻き戻り前の私は、周りから嘲笑われるのは慣れていたので気にはならなかった。でも、アルバロンは私を笑った生徒に対して注意をした。


「今笑った者は、レイバック辺境伯令嬢の治癒よりも劣っていた場合は不合格とする。魔術の技量は適性値だけではない。その程度もことも判らない者は、この学園に不要だ!」

「「!?」」


 庇ってくれたのは嬉しかったけど、私の治癒キュア治癒ヒールの劣化版なので、彼等が私より劣っているはずがない。そう思いながら私は治癒キュアを披露するのだった。


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