巻き戻り令嬢は努力する
小桃
嵌められた令嬢
「はぁ、はぁっ、姉さん、ごめんね」
全身傷だらけになりながら「ごめんね」の言葉と同時にその場で崩れ落ちる。私を庇っていなければ、致命傷となる傷を負うことはなかったはずだ。
「ファビオ! どうして私なんかの為に……」
私の顔は涙でグチャグチャになりながらも、息絶え絶えのファビオを胸に抱き寄せ声をかける。生き残るのは無能な私ではなく、誰よりも優秀なファビオであるべきだったのに……
「姉さんの為だからだよ。姉さんを守るのが僕の役目だったのに、ご…め…ん……」
私の胸の中で、義弟のファビオは最後に「ごめん」の言葉を残して息を引き取った。
「ファビオッ! どうして……」
私は無類の天才と呼ばれた義弟に嫉妬して、辛く当たったり嫌がらせをしてばかりだった。そんな人でなしの私なんかを守るために、ファビオはその短い生涯を終えたの。
「ファビオ、私なんかのために……、もし、あの世というものがあって、あなたと再開することができるのなら、心からの謝罪するからどうか許してね」
動かなくなった義弟を抱きしめ涙を流していると、私の元へ暗部の者とともにファーガソン王国第二王子のガウェイン殿下がやってきた。キラキラとした金髪に、透き通るような青い瞳をした殿下が私たちの元へ歩み寄る。
「流石はファビオと言ったところだったが、この無能なクズ女を守っていたおかげで、ようやく葬ることができた。初めてお前に感謝するぞリディアーヌ!」
『ゴッ!』
「あぅ……」
無能と罵られたあと、殿下に頭を踏みつけられると、痛みのあまりに声が漏れた。そして、ガウェイン殿下が周りに目線で合図を送ると、暗部の者が私の髪を掴んで立ち上がらせた。
すると殿下の背後から剣を手にした一人の女性が現れて、ゆっくりと私の元へ歩み寄ってきた瞬間『ザクッ』っと胸に衝撃が走る。そして、暗部の者が髪を掴んだ手を離すと、私はその場に崩れ落ちた。
「かはっ……」
女性の剣で胸を突かれたことにより、激しい痛みで声が漏れると、その女性は薄っすらと笑顔を見せながら、私に向けて罵声を浴びせるのだった
「あはっ、辺境伯令嬢の惨めな最後ね」
桃色の長い髪と同じ桃色瞳をした女性は、『ニタッ』と笑みを浮かべながら私のことを見下していた。
「……」
左胸を剣で突かれたことで、もはや声をあげることもできずに視界が霞んでくる。ガウェイン殿下はその女性を抱き寄せながら私に声をかけた。
「ははっ、遂に邪魔なお前を排除できたよ。これでリリアとの明るい未来が手に入る。お前が婚約破棄を受け入れていれば、このような結果にならなかったのにな! 本当に無能で馬鹿な奴だ。あ~はっはぁ~!」
殿下は高笑いしながら、私との結ばれていた婚約を破棄して、結ばれることを望んだ想い人であるリリア.ランベルト男爵令嬢と口づけを交わす。
豪商だった父親が、多額の金銭を献上したことで男爵位を買った成金貴族の娘だ。貴族らしからぬ天真爛漫な振る舞いに、殿下は心を奪われ恋に落ちた。私は辺境伯家の権力を行使して様々な嫌がらせをしたが、真実の愛というものには勝てず、結局は暗殺されるハメになったのだった。
「……」
目の前で横たわるファビオに視線を向けながら、私の視界が徐々に暗くなっていくなか語りかけたの。
「ファビオ……私も逝くわ」
私より先に逝ったファビオに想いを伝えると、私の視界は完全に真っ暗になり、リディアーヌ.レイバックは17年の生涯を、婚約者に裏切られる形で終えたのだった。
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