恋だろ
月丘翠
第1話
最近はスマホのアラームより先に目が覚める。
(5:00―)
再度目を閉じるが、眠れそうにない。
仕方なく起き上がると、ソファーに投げ置かれたパーカーを羽織る。
「ふぅあああ」
背伸びをしてみるが、最近は身体が重い。
もう30になるからだろうか。
それとも仕事と家の往復のみで、運動不足だからだろうか。
どっちにしろ、いいことではない。
カーテンを開けてみると、今日は思ったより寒いのか、窓が結露している。
「仕事行くの嫌だなぁ~・・・」
思わず声がでる。
仕事なんて行きたいと思ったことないのに、寒ければ余計に行きたくなくなる。
ソファーにドカっと座ると、TVをつけた。
朝のニュースが流れている。
最近は朝活が流行っているらしい。
こんな寒い朝からご苦労なことだ。
お湯を沸かしてコーヒーを入れ、「ふぅふぅ」と覚ましながら飲む。
(朝はやっぱりコーヒーに限る)
朝活で読書なんかもしている人もいるらしい。
(読書か・・・)
高校の時はよく本を読んでいたが、大学に入ってサークル行ったり、就活したりしている内に読書の機会は減り、さらに就職して仕事以外は寝ているような日々なので、読書はかなりご無沙汰だ。
そういえば、最近最寄り駅が再開発されて、先月図書館もリニューアルしていた。
(行ってみるか)
朝の通勤ラッシュほど憂鬱なものはない。
知らないおじさん、おばさんなどなどと体を押し付けあいながら、我慢し続けるしかない。
やっとのことで電車を降りると、会社へ向かう。
光里はシステムエンジニアとして、会社のシステム管理部に勤めている。
一日パソコンに向かっていることが多く、コミュニケーションをそんなに取らなくても仕事ができてしまう。
その為、コミュ障な光里は一人で過ごしていることが多い。
部署内でも仲良しグループみたいなのもあって、その仲良しで飲みにいったりしているらしい。
飲みにいきましょう、なんて当然声をかけられたことはない。
なのに、終わらない仕事を手伝ってほしいという声だけはよくかけられる。
コツコツと早めに仕事を終わらせていく。
退勤の時間になってパソコンを落とすと、疲れ切ったメガネの顔の男が映っている。
(老けたな・・・)
光里は荷物を手に持つと、誰からも返事がないだろうと思いつつ、「お疲れ様です」と小さめの声で挨拶して、会社を出た。
気温は朝よりは幾分かマシなようだ。
それは良かったのだが、帰りも帰宅ラッシュに巻き込まれた。
全くもって都会はしんどい。
元々田舎出身の光里には辛いことだ。
とはいえ大学から東京なので、もうかれこれ12年ほど経っている。
それでも人の多さは慣れないものだ。
我慢している内に最寄り駅に着き、図書館へ向かう。
初めての場所へ踏み入れるというのは何歳になってもドキドキするものだ。
図書館と思えないほど天井も高く、開放的な空間になっている。
窓も大きくて、おしゃれなカフェのようだ。
それでも本棚なんかを見ると、前の図書館から持ってきているのか少し古びたものもある。
(小説でもみるか)
小説の棚に行き、なんとなくタイトルを見ながら歩いていく。
「日向真理探偵シリーズ・・」
懐かしい本だ。
高校生の時にこのシリーズを読んでいた。
今となってはどんな事件があったのかも覚えていない。
(借りてみるか)
光里は日向真理探偵シリーズの1巻と30代が今読んでおくべきビジネス書として紹介されていた自己啓発本を借りることにした。
図書カードを作成し、カードを専用の機械にかざし、その後借りたい本に貼られたバーコードを読み取る。これで貸し出し完了となる。
返却も同じようにカードと本を機械にかざし、あとは返却図書はこちらと書かれた棚に戻すだけだ。
今時は人の手は全く要らないらしい。
借りた本を鞄にいれ、コンビニに寄って帰宅する。
「ぷふぁ・・最高!」
仕事が終わってビールを飲むこの瞬間が幸せだ。
(この時点でおじさんだよな)
それでもビールはやめれない。
「そういや・・・」
鞄から日向真理探偵シリーズの一巻を取り出した。
パラっとまくると、間から一枚の紙が出てきた。
「なんだ、これ?」
白い5㎝くらいの正方形の紙だ。
“こんにちは。初めまして、私は
可愛らしい文字で書かれている。
可愛らしい文字だからと決めつけてはいけないのだろうが、なんとなく女の子な気はする。
そしてきっと若い女の子だ。
30のおっさんが文通していい相手ではない。
こんなメモを挟んで変な奴に引っかかったらどうするんだ。
それにしても漢字は違うが、同じひかりとは、これは運命―。
なんて思うはずもない。
「いやいやいや」と本を机の端に追いやると、光里はいつものようにだらだらと動画をみながらお酒を飲んだ。
(うーん)
1巻を読み終え、2巻を借りて帰ってきた。
やはり、日向真理探偵シリーズは面白い。
大人になった今でもドキドキさせられるし、人間の怖さが上手く表現されていると感じる。
そしてもちろん、すぐに2巻も読み切ったわけだが―。
(返事・・・ねぇ)
なんとなく手に取ったシャーペンをくるりと回した。
(変なおっさんに捕まってはいけないから、な?)
誰にでもない自分に言い訳をしながら、返事を書くと本に挟んだ。
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