両片思いのバレンタイン

啄木鳥

第1話 バレンタイン、どうしようか?

 二月に入りバレンタインデーまであと一週間と少し。以前寒さも厳しい中、南雲一は少々浮かれていた。


 「どうした?そんな嬉しそうな顔して」


 「えっ、俺そんな顔してたか?」


 気になったので自分の顔を触ってみる。確かに口角が若干上がっているような......


 「正直ちょっとキモかったぞ、何にもないのにいきなり笑ったから」


 「キモいって、傷つくんだけど」


 「すまんすまん」


 この失礼な奴は田中達也だ。俺の友達、いや、親友かな?小学生からの付き合いで、中学二年生の今でもしょっちゅう遊んでいる。


 家が近いこともあり登下校も達也と一緒にしている。今は下校中だ。


 「まあ、バレンタインが近いからかな?笑っていたのは。もらえないってわかっていてもなんかわくわくするんだよな」


 俺の言葉を聞いて達也はふっと呆れたように笑う。


 「バレンタインではしゃぐなんて、ガキじゃないんだから、ガキじゃ」


 「なんだよ、達也だって去年までは俺と一緒になってはしゃいでたくせに」


 「去年の俺とは違うのだよ」


 そうやって決め顔をする達也。


 「なんだよ、それ。全然かっこよくないし」


 俺がそんな反応をすると少し恥ずかしくなったのか、話題を変える達也。


 「そ、そういや一は斎藤からのチョコを期待してんのか?」


 「はっ、えっ?お前なんで知って......っていうか誰が朱里のチョコなんて欲しがるかっ!」


 「お前嘘下手すぎんだろ......」


 斎藤朱里は達也と同じく俺とは小学生からの付き合いだ。髪は肩にかかるかかからないくらいの長さで、身長は150㎝くらい、気の強そうなくっきりとしたかおだちをしている。しょっちゅう俺に突っかかってくる面倒くさい奴だ。


 そんな朱里を一人の友達としてではなく、異性として意識し始めたのはいつだったか。はっきりとは思い出せないが、かなり前から好き、だったように思う。


 それにしても、いったいなんで達也は俺が朱里に好意を抱いていることを知っているのか。一度大きく息を吸って、達也にそのことを聞いてみる。


 「な、なんで俺が朱里のこと、その、好きだってこと知ってんだよ?」


 「そりゃあ、小さいころからお前らのこと見てきたし。大体、いつもお前ら二人で痴話喧嘩しているから、お前らが付き合ってるって噂してる奴らもいるぞ」


 「な、何だよ、痴話喧嘩って!そんなもんした覚えねぇし!」


 っていうか付き合っているとか噂されてるのかよ......


 「お前がその気じゃなくても周りから見たらそう見えるんだよ」


 「マジかぁ」


 そうして俺はがっくりと項垂れる。だけど、内心結構喜んでいる自分もいた。俺と朱里が付き合っている......照れるな。


 「何にやついてんだよ、またキモい顔になってんぞ」


 「うっせ、キモいって言うなし」


 イラっと来たので達也の頭を軽く叩く。


 「それで、どうするよ」


 「どうするって、何をだ?」


 「何って、バレンタインだよ、バレンタイン!さっきまでその話してただろ?」


 今度は達也が俺の頭を軽く叩いてきた。あれ、俺が叩いてきた時より若干強くなかったか?


 「バレンタイン?俺って何かすることあるか?チョコ受け取る側だし」


 そんな疑問を口にすると、達也からズバッと言い返される。


 「馬鹿、そうやって受け身の姿勢でいたから今まで斎藤と友達以上の関係になれなかったんだろ?最近、でもないけど、男から女にチョコを渡す逆チョコってのがあるんだよ。それやろうぜ、俺も協力するからよ」


 「お、おお、なんかずいぶんとぐいぐい来るな」


 「まあ、小学生の頃から一が斎藤のこと好きだって知ってたからな。こちらとしてはいい加減早くくっつけよって思ってたんだよ」


 「そんな前から知ってたのか!?どうせならもっと早く教えてくれたらよかったのに」


 そうやって俺は白い息を吐く。


 「まあ、そんなわけで、『一のバレンタイン告白作戦』だ!頑張るぞ、おー!」


 「おー!ってそのまんまだな、おい」


 「まあ、まあ、良いじゃないですか」


 「まったく」


 結局週末に俺の家でチョコ作りをすることになり、それ以外の日はバレンタインに向けての作戦を練ることとなった。


 

 ◇◇◇◇◇◇



 一方その頃、斎藤朱里は悩んでいた。


 「バレンタイン、どうすればいいの?いつもみたいにしたら結局渡せないまま終わっちゃうし......」


 「どうしたんですか?どこか悩んでいる様子でしたけど」


 「聞いてよ、綾ちゃん!今年こそは一にチョコあげて告白したいの!だけど、どうやってあげたらいいのかわからなくて......」


 彼女の名前は式宮綾香、朱里とは中学生からの付き合いだ。髪は短く、眼鏡をかけており、レンズ越しに見える目は少し垂れていて、優しそうな印象を受ける。


 文芸部に所属している。ちなみに達也も文芸部である。


 「普通にあげたらいいんじゃないですか?」


 「その普通がわからないから聞いてるんじゃない」


 「そうですか......朱里さんは前はチョコをどうあげようとしたんですか?」


 綾香にそう聞かれて去年や一昨年のバレンタインを思い出す。


 「えーと、確か前のバレンタインは当日に一の机の中にチョコを入れたりしようとしたけど、タイミングが掴めなかったり勇気が出なかったりで、そのまま家に帰った...ね」


 話しているうちにその日のことを思い出して、だんだんと顔が下を向いていく。


 うう、嫌なこと思い出したよ。恥ずかしいから忘れようとしてたのに......


 「あ、あの、嫌なことを思い出させたみたいですみませんでした」


 「いや、いいのよ。で、そんなこと聞いてどうするつもりだったの?」


 そう聞くと、綾香は眼鏡を掛けなおして話始める。


 「朱里さんの場合は、何の下準備もなくバレンタイン当日にチョコを渡そうとするから、うまくタイミングが掴めずに、その、失敗するんだと思うんです。だから、あらかじめ南雲さんをどこかに呼び出して、そこでチョコを渡して告白すればいいんじゃないでしょうか!」


 「確かにそれなら!いやでも、私も一もスマホ持ってないから連絡しようにもできないし、直接伝えるのはさすがに恥ずかしいし......」


 「えっ、南雲さんスマホ持ってないんですか。じゃあ、一体どうしたら......」


 しばらく二人で考えていると綾香が何か思いついたようで、話始めた。


 「あのっ、達也君って確か南雲さんと仲が良かったですよね?私がスマホで南雲さんを呼び出す場所や時間を達也君に教えればいいんじゃないでしょうか?」


 「うん、それいいかも!綾ちゃんには迷惑かけるかもだけど、お願いしていいかな?」


 「はい、大丈夫です!」


 ってあれ?達也にスマホで教える?達也の連絡先知ってるの?


 「綾ちゃん、いつから達也と連絡とるようになったの?」


 「えっ、ま、まあ、同じ部活に入ってますし......」


 「そっか、達也と同じ文芸部だもんね」


綾香が慌てていたのがちょっと気になるけど、まっ、いっか。


 「じゃあ、そっちの問題は解決したけど、チョコ作りはどうしよっか?私は結構作ったことあるから一人でも作れるけど」


 「私もちょうど作りたかったので一緒に作りましょう!」


 「あれ、ひょっとして綾ちゃんにもチョコをあげたい人がいたりして......」


 「ち、違いますよ!えっと、朱里さんにあげる用のチョコです!友チョコってやつですよ!」


 えっ、私のために?なにそれ嬉しい!


 「綾ちゃん!ありがとう、好き!」


 「ちょっ、いきなり抱き着かないでください!」


 (なんか今回のバレンタインはうまくいく気がする!)


 綾香に抱き着きながら私はそんなことを考えていた。

 


 


 



 

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