七色の魔術師は迷える羊の願いを繫ぐ

つなまぐろ

彼らの新たなる旅路

 一つの謳い文句から、彼らの永遠にも等しい旅が始まった。 


「その願い、僕達七色の魔術師が気分次第で叶えてあげます」


 この謳い文句は、平和な異世界では知らないものは無いほど有名なものである。人だけでなく、妖精族や獣人族、魔族すらも一度は耳にしたことがあるほどだ。

 そして、この言葉を聞いたことがある者は、一度では足らず、二度も三度もこう思っただろう。

 「どうか七色の魔術師様が現れて、願いを叶えてくれないか」

 と。

 

 だが、現実はおとぎ話のように上手くはいかない。

 よくよく考えてみて欲しい。この世界にどれほどの者が彼に祈っているだろうか。

 それに、もし仮に彼が現れたとしても、彼は気分次第で願いを叶えるということを忘れてはいけない。

 砂漠にでも行って、その中から一粒の砂金を見つけろと言われたほうが、まだ現実的である。

 

 しかし、幸運の女神に微笑まれ、先の確率を乗り越えた者はいる。

 彼らは年齢も、性別も、種族も異なっているし、会ってみた感想も千差万別だ。

 ある者は、聖母とも見間違うほどの慈愛に満ちあふれていたと語り、またある者は花の命のような触ればふっと消えてしまいそうな雰囲気に包まれていたという。

 その多くの感想の中でも、ある一つの感想だけは、皆共通していた。


 ――あぁ、七色ってこういう意味だったのか

 

 

 

 

 「師匠! 今までどこ行っていたんですか!」

 「リーユ、落ち着いて。外も寒いしちょっと日向ぼっこしていたんだよ」

 「あのですね、今はクマもシカも踊り回るくらいに温かい春ですよ」

 「ごめんごめん、じゃあ旅の再開とでもいこうか」

 

 師匠と呼ばれた男は、絵画から飛び出たような美貌を持っており、自然すらも虜にするような笑みを浮かべ、オルゴールのような、どこか懐かしく、包みこんでくれるような声でそう言った。


 この男の名はアルス。

 彼は、謳い文句にある七色の魔術師だったりする。

 灰色をした髪の毛は、光を浴びては艶かしく光り、灰のまつ毛に包まれた虹色の瞳は虹すら子供扱いする輝き、月白色の肌は自然と人を魅了する。

 あまりにも現実離れした美貌は、画家が書いた最高傑作と言う言葉が物足りない程である。

 

 リーユと呼ばれたアルスの弟子である少女もまた魔術師である。

 白銀の髪は肩ほどまで伸ばしており、光を受け止めては揺らし、彼女もまた虹色の瞳を持っているが、アルスとは違いどこか透き通るような色である。彼女のミルク色の柔肌に薄色の頬は浮かんでいる。

 あどけない容姿は、国の一つや二つぐらい簡単に傾けられそうなほど麗しい。

 

 この二人が並ぶと、天使すらもに声を失うと同時に心も掴まれるほど美しいのであり、神の寵愛を受けているのかと錯覚するほどのものである。


 「で、次はどこへ行くんですか?」

 「南の海の国セルートなんてどうかな、確かあそことっても美味しいクラーケンのたこ焼きが会ったはずだからお仕事のついでに、観光とグルメ楽しまない?」

 アルスの気分は興奮したドラゴンのように高揚していた。

 それもそのはず、彼は美味しいものに目がないのだ。

 彼が世界を旅する一三%はこれが理由だったりする。

 

 「残念ですが、クラーケンは個体数が減りすぎて国の保護対象となっていて、今では食べたり、傷つけたら牢屋行きになりますよ」

 「そっか、最後に行ったのは五百年前か…… あんだけ美味けりゃそりゃ数もへるよなぁ」

 もっと早く行って食べればよかったと彼の目には暗雲が立ちこめる。


 「師匠、東の軍事国家レーヤとかはどうですか、そろそろ大規模な軍のパレードとお祭りがありますよ」

 何千年とアルスといっしょにいたリーユは彼のことを、全知全能の神よりも知っている。

 彼は、グルメと同じ位面白いものが好きなのである。

 そう伝えると、彼の瞳は太陽すら軽く凌駕するほどの輝きをみせる。

 

 「よ~し、そうと決まれば、レーヤへ行こうじゃないか」

 「師匠、お仕事もちゃんとこなしてくださいね」


 リーユが少しニヤついてそう言うと、アルスはやる気という感情が、オーラとして見えるほどに満ち溢れ

 「当然だろ」

 と、一声。


 それは、小さな声だが、神のお告げよりも頼りになるものだった。


 「さぁ、次の迷える羊はどんな子かな?」

 


 



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