第5話 可愛い幼馴染にあらためてよろしく

 俺らが校庭に集まると、姉さんは俺らを一望。

 それから、可愛くウィンクした。


「じゃあみんな、これからブレインメイル、通称ブレイルの基本動作を説明するから、お姉ちゃんの真似をしてね♪」


 デバイスを装着している右耳、ではなく、姉さんは左耳に触れた。

 それから、何もない空間をタップ。

 きっと、本人にしか見えないARウィンドウを操作しているのだろう。


 すると、突然姉さんの周囲に光のラインが奔った。

 光は鎧の輪郭を描き出し、姉さんの五体は、CGのワイヤーフレームに覆われていく。


 それから、またたくまにテクスチャが張られるようにして実体化。


 そこには、肘や膝の先を巨大な機械装甲を装着し、背中には飛翔機を背負った姉さんの姿があった。


 パッと見の印象は、生前見たアニメや漫画に出てくるパワードスーツ美少女モノそっくりだった。


 入れ替わるようにして、姉さんのビジネススーツはテクスチャを失い、ワイヤーフレームの姿を経由して消滅。


 首から下は、赤いスクール水着のような格好になる。

 万能強化スーツ、ブレインメイル、通称ブレイル。


 5年前、とある天才が完成させて以降、爆発的に普及したガジェットだ。

 人の数千倍の身体能力に無反動飛行能力、そして追加装備で無限の拡張性を兼ね備えたブレイルは、いまやあらゆる業界を支える最優ツールである。


「はい♪ 変身完了だよ? どぉ弟ちゃん、似合っている?」


 姉さんが目元にピースサインを作ると、女子たちが湧いた。


「すごぉい!」

「本物のブレイルだぁ!」

「わたしたち、これからあれを着るんだよね♪」


 みんなウキウキで、まるで遊園地でアトラクションを待つ子供のソレだった。

 初々しい反応が可愛くて、見ていて癒される。


「じゃあみんなも初めてね♪」


 姉さんの指示で、みんなも左耳のブレイル専用デバイスに触れて、量子化されているブレイルを実体化、装着していく。


 俺も、左耳に触れた。

 すると、目の前にウィンドウが展開。


 【クイック起動】をタップした。

 同時に、脚部パーツの分だけ、俺の目線が1メートルほど高くなった。

 エレベーターに押し上げられるように、視界が上がる。


 肘と膝から先は機械の腕と足を装着して、中で指や足首を動かすと、機械の手と足首も動く仕組みだ。


 ――ふーん、こういう感じか。だいたい分かった。


 装着するのは初めてなのに、俺はブレイルの全てを理解した。


「じゃあみんな、ブレインメイル、通称ブレイルの基本動作を説明するよ♪」


 女子生徒たちみんなが紺色の装甲をまとうと、姉さんは元気よく口を開いた。


「ブレイルの操作は搭乗者の動きを模倣するアームスレイブシステムと、脳波で動かすBrain Computer Interface、通称BCIで行うの。みんなの手足を動かすと、ブレイルの手足も動くでしょ?」


 みんな、ブレイルの手でグーパーグーパーと開閉させる。


「そして、各種設定や飛行、武装展開、量子化と実体化は脳波で行うの。手足を動かすつもりでやってみて」


 姉さんの呼びかけで、女子たちは難しい顔を作る。


 すると、一部の女子が一瞬だけ浮かんだり、背中のウィングが動いたり、腰のハードポイントに高周波ブレードが構築されたりする。


 だけど、みんな使いこなせていないようだ。

 姉さんは、眉根を寄せて困り顔になる。


「あれれぇ? BCIネイティブのみんなならできると思ったんだけどなぁ~……」


 日本中に普及しているデバイスには、MR画面をタップせず、考えるだけで動かせるBCI機能がついている。

 ただし。


「ネイティブって、BCI搭載デバイスが発売したのは5年前だけど、普及したのは去年ぐらいからだぞ? 敷島だってタップ操作だったし」

「そうなの?」


 姉さんの視線の先では、敷島が浮かんだまま、姿勢を保つのに四苦八苦していた。

 まるでボールの上に立たされたように危なげだ。


「わわっ!?」


 敷島が氷の上ですっころぶように、すてんとひっくり返り、お尻から落ちた。


「おっと危ない」


 俺はカカトのバーニアで地面に反発力を発揮。

 加速して、敷島の背中を両手で抱き留めた。


「ふえ?」

「だいじょうぶかシキシマン?」


 俺を見上げるなり、敷島は頬を赤く固めた。


「あっくん!? う、うん……」


 きゅっと身を縮めるようにしながら、敷島は照れ笑った。


「一人で立てるか? 慣れないうちは手で支えていたほうがいいと思うけど」

「そ、それはいいよ!」

と、慌てて断ってきたので、俺は彼女を地面に立たせて離れた。

「ぁぅ……」


 すると、敷島は名残惜しそうに両手をからめてうつむいた。


「あ、あのね、あっくん、コーチさん、なんだよね?」

「そうだな。俺も乗るの初めてだけど」

「じゃあ、やっぱり、お願いしようかな?」

「おーけー」


 俺は腰のスラスターを起動させると、30センチほど浮かんだ。

敷島も同じように浮かぶと、まるでアイススケートを教えるように彼女の両手を握り、地上を滑った。


「なんかこうしている一緒に自転車に乗る練習したのを思い出すな」

「えへへ、そうだね。でも、あの時とは立場が逆だよ」


 俺を見上げながら、敷島は可愛くはにかみ笑った。


「あの時はシキシマンが公園の山の上から自転車で駆け下りながらジャンプしながら男子中学生に飛び蹴りを食らわせてカッコよかったなぁ」

「も、もぉシキシマンはやめてよッ。しきしま、高校生なんだから」


 軽く頬をふくらませて、可愛く抗議してくる。

 彼女があのわんぱく小僧だとは、とてもじゃないけど信じられない。


「なんだよ、正義の味方シキシマンは卒業しちゃったのか。寂しいぞ?」

「しきしま」「ン」「だっていつまでも子供じゃって、変なところで【ン】を入れないでよ!」


 可愛い眉を吊り上げて遺憾の意を示してから、敷島は語気を強めた。


「もぉシキシマン呼び禁止ッ、里桜って呼んでよ。しきしまも、あっくんじゃなくてあさとしって呼ぶから」

「はは、悪い悪い。じゃあ里桜、これからあらためて、よろしくな」

「うん、よろしくね、あさとし♪」


 俺らは笑みを交わし合いながら、まるで社交ダンスでも踊るように浮遊し続けた。

 すると、姉さんがちょっと声を鋭くした。


「こらこら弟ちゃん。コーチなんだから、みんなに平等にね」


 見れば、他の女子生徒たちがうらやましそうに、あるいは妬ましそうにこちら里桜を見つめていた。

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