第6話 今日からステップ2 火山洞窟で弱点を突こう!
今日のダンジョンは、28階層の火山洞窟だった。
赤茶色の壁面に囲まれて洞窟の空気は焼けるように暑く、けれど湿気はなくて、まるで乾燥した冬に周囲をヒーターで囲まれているようだった。
けれど、レベルが上がっているせいか、暑いことは認識できるも、あまり辛くはなかった。
コハクも、メイド服姿なのにあまり汗をかいているようには見えない。
――コハクって強いのかな?
ふと疑問に思った矢先、前方の曲がり角から赤毛のイノシシが姿を見せた。
いや、赤毛に見えたのは炎だった。
全身が赤く燃え盛るイノシシは、一呼吸ごとに鼻先から炎を噴いているそれは、前に動画で見たことがある。
確か、フレイムボアとかいうモンスターだ。
「■■■■■■!」
フレイボアが牙を鳴らして威嚇。
それから、鼻から火炎流を噴いてきた。
火炎放射のような炎の烈風に、俺は右手を前に突き出して叫んだ。
「クレイ!」
俺の手の平から土くれが生じて粘土をこねるように固まり、土はバスケットボールサイズの岩石へと変わった。
そして、砲弾のように放たれると火炎流を遮り、かきわけながら滑空し、フレイムボアのハナヅラに直撃した。
「■■■■!」
フレイムボアが苦しそうな声を上げると、コハクが声をはずませた。
「成功だね。火炎攻撃は物理強度を無視したダメージを与えられるし追加ダメージも期待できる反面、物理干渉力が低いのが難点だ」
「ああ。焚火に石を投げ込んでも弾かれるわけじゃないし、石をバーナーで炙っても焼け石になるだけだしな」
石を焼き貫いて破壊する炎なんて、ちょっと考えられない。
続けて、俺はとどめの一撃とばかりに、次の魔術を放った。
「アクア!」
手の平から巨大な水の玉が高速で放たれ、フレイムボアの顔面を叩いた。
すると、フレイムボアの鼻から炎の息吹が止まり、地面に膝を折った。
全身を覆う炎も、明らかに小さくなっている。
そこへ、俺は畳みかけるように水流魔術を連続で放った。
するとフレイムボアは動かなくなり、リザルト画面が開いた。
レベルは高くなるほど、上がりにくくなる。
流石にもう、一体倒すだけでレベルアップ、なんてうまい話はないけれど、ドロップしたアイテムはそれなりに貴重なものでテンションが上がった。
すると、頭上からシュルシュルという蛇のような呼吸音が聞こえてきた。
視線を上げると、フレイムボアのいた場所の上、天井に、ワニのように大きな赤いトカゲが張り付いていた。
あっさりとフレイムボアを倒した俺を警戒しているのか、黄色い目玉の中央で縦に開いた瞳孔はジッとこちらを見つめるも、攻撃をしてくる様子はない。
けれど、このまま何もしなければ容易い敵を判断していつ襲ってくるかわからない。
「コハク、サラマンダーは炎のトカゲだから、水魔術が弱点だよな?」
「いや、使うのは水魔術だけど理由が違うね」
「違う?」
彼女は小さく頷いて声を潜めた。
「うん。勘違いされがちだけど、サラマンダーは炎属性だから熱いところでも平気なんじゃなくて、全身を覆ううろこが冷たいから熱を相殺して内臓を熱から守っているんだ。だから、体内はむしろ熱に弱いよ」
「へぇ、そうだったんだな。じゃあなんで水魔術なんだ?」
「素材のため。騙されたと思って水魔術を撃ちまくって」
「わかった」
俺は、コハクの言う通り、魔力の続く限り水魔術を撃ちまくった。
するとサラマンダーは天井から地面に落ちて、そのまま水に溺れるようにもがき苦しんだ。
なんだかかわいそうな気もするけれど、俺は変わらず、水魔術を浴びせ続けた。
すると、サラマンダーは徐々に動かなくなり、やがて動かなくなった。
リザルト画面が開くと、俺はコハクに尋ねた。
「なぁ、勝ったけど、なんの意味があったんだ?」
「ほら見て、サラマンダーの体、無傷でしょ?」
言われてみれば、サラマンダーはおぼれ死んだので、その死体はまったくの無傷だった。
「そうだな」
「つ、ま、り、これでサラマンダーの耐熱皮素材、まるごとゲットってわけ」
「あ」
合点がいって、俺は手を叩いた。
「そういうこと。ホースの水を浴びてダメージを受ける人はいない。水そのものには破壊力なんてない。けど、水魔術は相手を傷つけずに無力化させたり、無傷で素材が欲しい時に使えるんだ」
「何かしらの理由で相手を捕獲したいときに便利そうだな」
「うんうん、呑み込みが早いね。じゃあマスター、そろそろ、弱点属性を浴びせるだけのルーチンワークには飽きてきたんじゃない?」
コハクのウィンクに、俺はちょっと言葉に詰まった。
確かに初日ほどのスリルはないし、やや飽きた感じは否めないも、なんだかそれを言うのは気が引けた。
けれど、コハクは俺の気持ちを見透かすようにほくそ笑んだ。
「だからマスター、今日からはステップ2。弱点属性を浴びせるのは同じだけど、今度は瞬間的に自分で判断しながら戦ってね」
コハクが笑顔で洞窟の奥を手で指した。
俺は導かれるがままに足を運ぶと、やや開けた場所に出る。
天井の高いドーム状のそこには、多種多様なモンスターが巣くっていた。
体が炎できたもの、昆虫型や、獣型、それぞれ違った特性を持つであろうモンスターたちが目白押しだった。
その全てが、一様に俺を睨み、警戒してくる。
振り返れば、コハクは安全な通路まで下がり、観戦モードに入っていた。
――こいつめ。
と、小憎らしく思いながらも、俺はワクワクしながら正面を向いた。
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