第4話 ダンジョンライフが楽し過ぎる!
――この子、童貞の気持ちに精通しすぎじゃないかな?
俺がコハクに優位を取りたいなと思っていると、突然目の前にリザルト画面が開いた。
そこには俺が獲得したEXP、そしてドロップしたアイテムが表示されている。
冒険者はダンジョンに入ると全員、ストレージという能力を得る。
これはダンジョン内のものを一定量、異空間に収納しておける能力だ。
おかげで、冒険者は大量の素材を背負って移動する必要がない。
ちなみに、他人に所有権のあるものは入れられないので、ストレージを使った盗みは不可能らしい。
「おー」
振り返れば、火は消えて、炭化したドライトレントだったものが白煙を上げて沈黙していた。
リザルト画面の回収ボタンをタップすると、ドライトレントは消失。
まるごと俺のストレージに入った。
それから、俺のレベルは一気に1から6に上がる。
フレアで倒したせいだろう、魔力が一気に上昇した。
「すごいな、流石は25階層」
俺がちょっと興奮すると、コハクは嬉しそうに微笑を浮かべた。
「でしょ? 魔力が上がれば魔術の威力も使える回数も増える。魔術を使い過ぎると魔力は下がって回復するのにしばらくかかるけど、レベルが上がれば最大まで回復する。それにこの森には魔力を回復するエーテルベリーが豊富に実っているから、初心者のマスターでも魔力を気にせず、どんどん魔術を使えるよ♪」
「よし、ガンガン行こうぜ!」
「その意気だよ♪」
俺がガッツポーズを作ると、コハクも合わせて拳を突き上げてくれた。
そして、拳をほどきながらゆっくりと手を俺の頭に下ろしてくれる。
「初勝利おめでとう、いいこいいこ♪」
コハクの手の平の感触が心地よくて、温かくて、俺は何も言えなくなってしまった。
彼女に頭を撫でられると、童心に帰ってしまい、底なしに甘えたくなってしまう。
◆
そこから先は、最高の時間だった。
森中を走り回りながら、ドライトレントを見つけ次第、フレアを叩き込んでやり、俺のレベルはどんどん上がった。
おかげで魔力程ではないけれど運動能力も上がって、いくら走っても疲れない。
むしろ、心地よいくらいだった。
まるで、自分の体じゃないみたいだ。
途中、エーテルベリーという、味も見た目もサクランボに似ている実をコハクが回収。
道中で食べながらモンスターを駆逐していると、魔力は常に最大状態を維持できた。
フレア一発で倒せてしまう単調なルーチンワーク。
だけど、自分で魔術を行使して敵を倒すという初体験に、俺は楽しくて仕方なかった。
それに、レベルアップと同時に俺自身がフレアを覚えると、火炎の指輪は必要なくなった。
右手の人差し指から指輪を外す時は、自身の確かな成長を感じられた。
加えて、コハクのおかげで変化も堪能できた。
「■■■■!」
「おいコハク、こっちに走って来るあのトレント、葉が生い茂っているぞ!?」
「あれは水気タップリのフレッシュトレントだね。フレアは効かないからフリーズよろしく」
「フ、フリーズ!」
俺の手の平からバスケットボール大の青白い冷気の塊が放たれると、太い根の一本に叩き潰された。
けれど、根っこは白く凍結して、フレッシュトレントの足が遅くなり、突進スピードが落ちた。
続けてもう一発、フリーズを放つと、今度は他の根が動きが鈍く、フレッシュトレントの顔面に直撃、幹が凍結した。
凍結が幹全体に広がると、巨木は内側から縦に割れて、簡単に倒せた。
俺のレベルは11になった。
「冷気魔術は相手の動きを遅くする追加効果があるから、一発目で倒せなくても二発三発と重ねがけが期待できるから、覚えておいて」
「おう!」
またしばらくして。
「おいコハク、あれってマーダーホーネットだよな?」
「うん、人間大の殺人蜂だよ。フレアとフリーズが弱点だけど、縦横無尽の飛行性能が発揮する回避能力があるから、まともには当たらないね。冷気魔術じゃなくて、氷水魔術の連射よろしく」
「アイス! アイス、アイス、アイス、アイス!」
俺が何度も魔術名を叫ぶと、左手から水しぶきが噴射された。
さしものマーダーホーネットたちも、面攻撃は避けきれなかったらしい。
体に水を浴びて、その身を濡らしていく。
敵の襲来に、文字通り、マーダーホーネットは蜂の巣を突いた騒ぎようで、次々俺に襲い掛かって来る。
俺はそこら中にアイスを振りまいて追い払い続ける。
そうすると、一匹、また一匹とマーダーホーネットが地面に落ちて、動かなくなっていく。
数分後、そこに立っているのは俺一人だった。
足元のマーダーホーネットたちは、全員体のあちこちに氷が張っていた。
「おめでとうマスター♪」
拍手をしながら、コハクが木の陰から姿を現した。
「ありがとうな。動きを鈍くする冷気魔術と違って、氷水魔術は拘束する力が強くて、しかも体を覆う氷が体を冷やし続けるから追加ダメージも期待できる。コハクの言う通りだな」
「その代わりトレントみたいに体の大きな敵は拘束が難しいから、そういう時は冷気魔術のほうが有効だね」
「覚えておくよ。お、また色々ドロップしたな。レア素材もアイテムもたくさん手に入ったし、レベルも18から……20!?」
――え、これって、つまり、加橋の奴と、並んだ? そういえば、ここ25階層だもんな……。
ダンジョンは、基本的に階層前後3レベルのモンスターが出現する。
つまり、この階層のモンスターのレベルは22~28ということになる。
そんな敵を何十体も倒していれば、当然だろう。
「て、ん? 加橋よりも上……」
そこで、俺はあることを思い出して血の気が引いた。
「どうしたのマスター?」
コハクが俺の顔を覗き込んできて、亜麻色の髪がカーテンのようにさらりと垂れる。
けれど、今はその美貌に見とれる暇はなかった。
「学校!」
俺は叫んで、エレベーターへ走った。
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