第25話


『ESS、障壁展開、愛のパワーで成功です!』

「ナイス‼」


 反射的に声を張り上げてしまった。


『いいねぇ、電磁フィールドとは違う。正体不明のシステムか? そういうのが、一番俺を愉快にさせてくれるんだよぉ‼』


 ホーネットから、続けてミサイルが放たれ続ける。

 愛希は、消えかけた障壁を再び構築して、ミサイルの猛攻から俺らを守る。

 だが、障壁は徐々に激しく震え、その形を保てなくなっていく。


「愛希、この障壁って移動しながら張れるか?」

『すいません、流石にそれは無理です。こうして喋るだけでも、障壁が崩れそうです』


 ESS、つまり超能力の使用には、極限の集中力が必要だ。

 何かをしながらの発動は、困難を極める。


 このままでは、遅かれ早かれ全滅だ。


 ゆっくりと息を吐いて、俺は焦りで煮え立つ思考を冷ましながら考えた。


 相手は、下方のあらゆる動きを感知し、避ける最強の高感度ハイパーセンサー搭載の最強対地兵器ホーネット、対するこちらは陸戦兵器ブレインメイル、どうすればいい。


 ミア姉との訓練で、こんな状況は想定していない。

 ミア姉と一緒に見た、巨大ロボアニメでも、こんな状況はなかった。


 ならばと、俺は自分の取るべき行動を決断した。


「皆恋、萌仲を連れて国道三十六号線まで離脱してくれ」

『アンタ何言ってんのよ! こんな状況でアンタたちを置いていけるわけないじゃない!』


「だからこそだ! このままじゃ四人とも死ぬだけだ! なら、俺と愛希でこいつを足止めするから、その間にお前らだけでも逃げろ! そして生き残ったっていう戦果を持ち帰ってくれ‼」


 最後のは、皆恋が逃げやすくなるための口実であり、少しの本音でもある。

 四機とも初陣で撃墜となれば、ミア姉の巨大ロボプロジェクトは確実に廃止される。


 けれど、二人だけでも生きて帰れば、まだ希望はある。

 すると、コックピット内の画面に皆恋の顔が映る。テレビ電話機能で表示された皆恋の顔は、両目を吊り上げ、口を大きく開けた。


『フザケんじゃないわよ! 第一さっきもアタシのことかばって、アタシら仲間なんでしょ! だったらバカなこと言っていないで全員で助かる方法考えなさいよね‼』


 皆恋の声は熱く、叩きつけるようにして叫んでくる。

 そのことが嬉しくて、ますます皆恋を逃がさなくてはという使命感が湧いてくる。


 皆恋は、元々は戦闘機のパイロットになりたかった子だ。


 それを、俺らが無理やり巨大ロボチームに引きずり込んだ。

 ここで死なれたら、死んでも死にきれない。


「うるせえ! お前戦闘機のパイロットなるんだろ! だったらさっさと逃げて二度と戻ってくんな‼ 逃げないなら俺がこの場で撃ち殺すぞ‼」


 我ながら、無茶苦茶でわけのわからない脅し文句だ。

 でも、それで皆恋も俺の気持ちを分かってくれたのだろう。


 皆恋は一瞬、怯んだ顔をすると、テレビ電話機能を閉じた。


 それからアーチャーは萌仲のフェンサーを抱えるとハイブースターを起動。半飛行タイプ故の超跳躍で、大通公園の外に飛び出した。


『皆恋ダメ! 愛希たちも一緒に――』


 萌仲も俺の気持ちを汲んでくれたのだろう。

 涙混じりで叫んでから、急に黙り込んだ。


『逃がすかよ!』

「させるかよ!」


 俺は背中のミサイルランチャーの全セイフティを外し、残る全弾をくれてやる。


 愛希の展開する障壁を迂回するように飛ばしたミサイルが、ホーネットのミサイルと干渉しあって空中爆発を起こす。


 これで俺は弾切れだ。

 腕のガトリングも、ライフルの弾も残っていない。

 あるのは、せいぜいハンドガンぐらいか。


「あーあ、やっと可愛い萌仲の感情的な声が聞けたのに、涙声かよ……」


 自嘲気味に笑う。

 レーダーから二人の反応が離れていくのを確認しながら、俺は静かに謝った。


「ごめんな愛希、本当はお前のことも逃がしてやりたかったんだけど……」

『いいですよ、兄さん。私の障壁がないとアレを引き付けることはできませんし……』

愛希は、温もりを感じさせてくれる、優しい声で語り掛けてくる。

『それに、私が死ぬとき、一番そばにいるのが兄さんだなんて、素敵じゃないですか』


 胸の中に、優しい気持ちが溢れて来るのを感じながら、俺はコックピットで頷いた。


「そうだな……ミア姉、聞いているんだろ? そういうわけで、ごめんな……」

『……なぁ、弟者』


 俺が呼びかけると、ミア姉は、涙をこらえながら、凛とした虚勢を張って尋ねてきた。


『最後に言わせてくれ……君を、愛している……』


 その言葉にハッとしてから、俺は、ミア姉の不屈のブラコンぶりを尊敬した。


「ああ、愛しているよ……俺も、昔からずっとな」



「…………録音したぞ」



「え?」


 途端に、通信機の向こう側から、ミア姉の笑い声が聞こえた。

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