第23話
「分かった」
『了解よ』
『んっ』
本日、三発目のグレネード弾が、空に上がった。
大きく弧を描きながら、ビルの頭上をまたいで、グレネード弾はずっと西側の、西四丁目区画に着弾した。
爆音が響き、正体不明の破片が目の前の西一丁目区画をひゅんひゅん通り過ぎていく。
そこに、俺と萌仲は殴り込む。
俺は両腕のガトリング砲で大通公園内の、戦車を含む戦闘車両を片っ端から破壊して、萌仲は両手に握った高周波マチェットソードで西へ。西二丁目、三丁目へと深く切り込んでいった。
電光石火、獅子奮迅とはまさにこのこと。時速二五〇キロのトップスピードの中で、萌仲はあらゆる現行兵器を置き去りにしていく。
戦車は砲身を彼女に向ける間もなく、砲塔を破壊されていく。
大通公園は、たちまち逃げ出す兵士で溢れかえり、人の群れは雲散霧消していった。
やや離れた場所の戦車が萌仲を狙ったが、そうした輩は真っ先に皆恋の餌食となる。
僅か三〇秒で、俺らは西一丁目から、三丁目までを攻略していた。
自分でも驚くべき電撃戦だ。
『まさか本当に巨大ロボがいるとはな、日本はバカなのか!?』
外部スピーカーの声。
顔を上げると、西六丁目から、通常の倍はある、超ド級のマンモス戦車が地面を揺らし木々を圧し潰しながら向かってきた。
エンジンとキャタピラの駆動音は、並の戦車の八倍以上はある。静音性を投げ捨て、ある意味巨大ロボよりよっぽど目立つ戦車だった。
砲口がわずかに動いたのを確認して、俺らはすばやくサイドステップを踏んだ。
コンマ一秒後、主砲が咆哮を上げ、さっぽろテレビ塔に風穴が空いた。
砲口から、不吉な駆動音が聞こえた直後、再び発砲。
二度目の砲撃で、さっぽろテレビ塔は金属の絶叫を上げながら、俺らに向かって倒れてきた。BMのコックピットにいても振動が伝わるほどの衝撃波を起こしながら、テレビ塔は地面にその身を打ち付けた。
テレビ塔の巨大すぎるボディは、西一丁目と二丁目を足しても収まりきらず、先端部分が俺らの立っている三丁目に達した。
いやいや、ベースキャンプ使えなくしてどうするんだよ。
きっと、あの戦車の戦車長は、けっこうな地位の指揮官に違いない。
それで、オモチャみたいな兵器に煮え湯を飲まされて、ヒステリックになっているんだろう。こういう大人にはなりたくないものである。
「愛希、あいつどうする?」
『そうですね、ボディの焼け跡から、私のグレネード弾の爆発には巻き込まれているはずです。それでもなお平然と動くあの装甲を突破するのは、至難の業でしょう』
ん?
『アタシの銃じゃダメってこと?』
おやおや?
『はい、兄さんの荷電粒子砲をなんとか当てる方法を考えましょう』
「おい二人とも、萌仲いっちゃったぞ?」
『『へ?』』
萌仲は、狙いをつけられないようトムソンガゼルばりのジグザク走行をしながらドロリと身を溶かすように深くかがみ、マンモス戦車の懐に潜り込んだかと思えば、一瞬で立ち上がりながら腰をひねり、マチェットソードを閃かせた。
『ん、多次元斬』
萌仲の刀身が、マンモス戦車の車体と砲塔のはざまに滑り込んだ。
が、刀身が食い込めたのは砲塔の中程、そこから先は、激しい火花を散らしながら、硬いバターを切るように、強い抵抗を受けながらもズルズルと進む。
『ん、んむ、むんっ』
ついに、刀身が戦車を通り抜けて、萌仲は回転後ろ蹴りで砲塔を蹴り飛ばした。
身長八メートル体重十トンのアルティメットヘビー級ボディを使い、軍隊格闘の達人である萌仲の、腰と体重を乗せた蹴りが炸裂すれば、その威力は想像するだけで恐ろしい。
案の定、砲塔は真横にスライドして落下。
戦車からは、今まで通り兵士たちが悲鳴を上げて逃げて行った。
六丁目のさらに先、七丁目以降のA国軍は、早くも撤退を始めていた。
人間は戦闘マシンじゃない。
味方が不利となれば恐怖するし、戦意が挫ければ逃げる。
突然グレネード弾の奇襲攻撃を受け、鋼の巨人四体がベースキャンプに乗り込んできた挙句に、自慢のマンモス戦車を瞬殺されて、戦意を保てるわけもない。
愛希と皆恋が、萌仲を褒めちぎりながら奥へ進む。
その間に、敵兵士の姿はついに一人も見えなくなった。
戦闘の手ごたえが無さすぎて、俺は、自分が強いとか、スレイヤーが強いとか考えた。
でも、すぐに被りを振って考えをあらためた。
俺やスレイヤーが凄いんじゃない、萌仲たちが凄いんだ。
統率支援の愛希、射撃の皆恋、近接戦闘の萌仲が、自分の役割を果たしながら、得意分野で活躍する。
それが今日の戦果を産んでいる。
皆恋は、自分はアーチャーを使いこなせているか、と不安がっていた。
でも、基地に戻ったら、はっきりと言ってあげたい。
お前は、最高のパイロットだよ、と。
今一度、大通公園を眺めまわす。
これで、敵のベースキャンプは奪取した。
グレネード弾の影響を受けていない、無傷の西半分は、物資や兵士が寝泊まりするプレハブ小屋が立ち並び、市民の憩いの場としての姿はない。
いつの日か、本来の姿を取り戻すことを願いつつ、俺は感無量のため息をついた。
『敵の大通公園からの撤退を確認。やりましたね、兄さん♪』
「ああ、でも敵の増援部隊が来るかもしれない。味方の部隊は来れそうか?」
『えっとですねぇ……ん、この反応は……皆さん、一時の方角に敵機の反応! デカイのが来ますよ!』
通信機越しに愛希が声を張り上げる。
右斜め前に視線を投げると、ビルの向こう側から、巨大なドローンが姿を現した。
全長はおよそ三〇メートル。
BMの全高の四倍近くと考えるとデカイが、日本軍の前進である自衛隊が使っていた戦闘機F15の全長が二〇メートルであることを考えると、そこまで大きくはない。
けれど俺は、まるで空飛ぶ要塞のような威圧感を受けた。
なるほど、これが、BMを前に逃げ出した兵士の気持ちか。
見下ろされるというのは、やはり凄まじい圧力がある。
『あれ、遠隔操作型半自律兵器ホーネットよね? 世界最大の軍事用戦闘ドローンじゃない! あれ一機で戦車が一〇〇両は買えるわよ‼』
流石は航空機メーカーのお嬢様、値段には詳しいな。
そして、その値段が兵器の脅威度を、如実に語っていた。
『諸君、残念だが撤退だ』
「ミア姉?」
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