第19話



 戦車より巨大ロボのほうが強い三つの理由。

① 戦車より巨大ロボのほうが隠密性が高い。(ビルの陰に隠れて攻撃できる)

② 戦車より巨大ロボのほうが敏捷性が高い。



 次の瞬間、ビルの隙間から戦車が現れ、俺に主砲を向けると同時に撃破された。振り返ると、皆恋のアーチャーが握るライフルの銃口から、煙が上がっていた。


『ふん、トロい敵ね』

「ありがとう皆恋」


 お礼を言うと、


「何言っているのよ、友達なら当然でしょ」


 と、妙にやる気溢れる声が返ってきた。


「お、おう」


 元気になってくれたのは嬉しいけど、効果あり過ぎだろ。空回りしないといいけど。


 なんていう俺の心配は杞憂だったらしく、その後も皆恋は抜群の射撃力を発揮して、進撃を続けた。


 俺らの侵攻が早すぎて、味方の戦車隊は追いつけず、隊列を千切りそうな勢いだ。


『次の、広い駐車場のある建物を左に曲がれば、豊平川までは一直線です。急ぎましょう』

「OK、あっ」


 目の前の横道から、一両の戦車が飛び出してきたので跳び越えた。その途中、真下に向かって引き金を引いておいた。


 萌仲、愛希、皆恋と、三人も跳び越え際に一発撃ち込み、四発目で戦車は異音を鳴らして止まった。あとは、後方の味方がなんとかするだろう。


『レーダーによると、戦車はいませんが大口径の武器を所持した歩兵が二一三人、一個中隊分います。バズーカかもしれないので気を付けて下さい』


 愛希のコンダクターは、俺らよりも高性能なレーダーを搭載している。


 レーダーの範囲が広いだけでなく、小さな金属反応も正確に検知して、車両はおろか、重装備の兵士の人数まで割り出してしまう。


 それにしてもバズーカか、困ったな。

 バズーカは、現在もっとも戦車殺しに近い兵器だ。


 巨大な戦車砲は歩兵に当たりにくいが、歩兵のバズーカはデカブツの戦車にはよく当たる。そして戦車の耐久性は、重量と素材の都合で限界があるが、バズーカは火薬を増やせばいくらでも威力を上げられる。


 戦争の歴史において、ディフェンス側はいつも苦境に立たされてきた。


 それはBMも同じ。一人二人ならともかく、ずらりと並んだバズーカ隊に一斉射撃なんてされたら、かわせる自信はない。


『萌仲、気にせず運動会の徒競走気分で全力疾走するんだ』

「ん、りょーかい」

「はっ? ミア姉何言ってんだよ」


『いいから、騙されたと思って君らも行け』


 ミア姉は半笑いで、妙に自信ありげだった。


「ああもう、何考えてんだよ!」


 もっとも運動性能の高い萌仲のフェンサーが先頭を走り、広い駐車場のあるビルのところで、ホームベースを回る野球選手のようにがくりと方向転換した。


 歩兵たちのバズーカ砲に晒される萌仲を守れるように、俺も全力疾走で彼女を追った。


 そして、俺の視界に、数えきれないほどの歩兵たちが飛び込んできた。

 それも……バズーカを投げ出して逃げ惑う姿が……。


「え?」

『ぜんりょくしっそー(進撃)』


 萌仲のフェンサーがライフルを背中のハードポイントに取りつけて、両腕を大きく振って、足は広いストライドを維持しながら全力疾走した。


 そのスピードは、時速二五〇キロに達する。


「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇ッっ~~‼」

「△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△‼?」

「□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□‼‼‼」


 A国語の絶叫を上げながら、ライオンの大群を前にしたバンビのように逃げる兵士たち。

 俺は、何が起こっているのか、まるで分からなかった。


「どうして誰も、手に持っているバズーカを撃たないんだ?」


『ハハハ、それは無理な話だよ弟者。巨大ロボに乗る側の君らには解らないかもしれないが、彼らの立場になって考えてみてくれ』


 ミア姉は声の調子を良くして、痛快そうに喋る。


『鋼の巨人が全力疾走してくる。そんな光景を前に、悠長にバズーカを構えられる人間がどこにいる?』


「あ…………」


『気づいたようだね。そうさ。人間が根源的に持つ本能、デカイ奴は怖い。まして相手は動かない建造物や道路を走る車両じゃない。自分らと同じ人型、生物的フォルムを持った相手だ。怖くないわけがない。まして、自分に向かって全力疾走だ。戦車と巨大ロボでは見下ろされる【目線の高さ】が違う。歩兵への威圧感は、戦車を遥かに凌駕するのだ!』


「つまり、巨大ロボなんてバズーカで倒せる、という考えこそが机上の空論てわけか。それは爽快だな!」


 パニックを起こし、恐慌状態の兵士たちが守る道路を突っ切り、ゆるやかなカーブに沿って走ると、前方にでかい川を望めた。


『ん、一着ぅ』

『よくやった萌仲、後で一等賞の賞状をあげよう。そして諸君、ここが第一関門だぞ』

「らしいな……」


 目の前の豊平川を挟んだ、一〇〇メートル以上先の対岸には、続々と敵戦車が集まってきている。右手三〇〇メートル先の橋は、既に敵戦車が渡り始めていた。


 俺らは、横長の薄っぺらいマンションの陰に隠れて、レーダーマップを確認した。


『姉さん、敵戦車隊が橋を渡ってきます。まだ、我々には気付いていないようです』

『了解した。橋での戦闘は得策ではない。遮蔽物の少ない橋の上では、戦車が有利だ。そちらは味方の戦車隊に任せて、君らは対岸の敵を殲滅し、川を直接踏破してくれ』

「対岸の敵、か」


 対岸に集結している戦車隊は次々土手を下り、川を渡ってきている。

 水密性は万全らしい。


 そこへ、味方戦車隊からの通信が入る。妙に、焦った声だった。


『やっと追いついたぞガキ共。お前らはそこで見物していろ!』

『俺らが、戦車対戦車の戦いというモノを見せてやる!』


 俺らの、予想外な活躍のせいだろう、焦燥感が隠せていない。


『いいか、奴らはこの土手を登ってくる。土手から平地に乗り上げる瞬間、奴らは戦車の腹を見せる。だが砲身は斜め上、向こうからは手出しはできない。そこを一気に叩くのだ!』


『それは違うな』


 姉さんの声だった。


『敵の数が多すぎる。戦車の数はこちらの五倍だ。多くの撃ち漏らしが平地に乗り上げ殺到してくるだろう。弟者、愛希、皆恋、萌仲、訓練通り、土手を登ってくる前に叩け』


「了解だ」

『了解です♪』

『了解!』

『ん、りょーかい』

『こら、てめぇら勝手に!』


 おっさんたちの声を無視して、まず愛希がライフルを背中のハードポイントに保持し、代わりに第二兵装を取り出した。

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