29月 親子喧嘩


 登場と同時に首を刎ねられたトバリ。天候が晴天に変わるも、空間の裂け目から溢れる膨大な魔力の影響か、空気はよどみ呼吸をするだけで悪寒が全身を駆け巡る。


 不吉と厄災を告げる微風そよかぜの一撫でに、ローウィンとツクオミ以外のアリス達や禁忌狩りは顔をしかめながらトバリから無意識に視線を反らした。


 そんな最中、落ちていくトバリの首からは、ズルズルッ!と体が生えて、ヒタリと静かに地面に着地し。

 浮遊する首の無い体からもモコモコと頭が生え初め。


 その様子にローウィンは「きんっも…!」と顔をしかめながら、2人のトバリを休場の結界で包み込んだ。


「容赦なさすぎワロタ~…」


 そう言いながら苦笑いを浮かべ胡坐あぐらを掻く地面のトバリに対し。

 上空、裂け目を背にするトバリは、ギロリとレッドキーを睨みつける、その次の瞬間───。


 結界内からトバリの姿は消え、レッドキーの目の前にテレポートした。


「ヒドイなぁ、いきなり斬るなんて。ゴミのクセにさぁ」


「──っ!?」


 顔近くに現れた笑顔のトバリに驚き、仰け反るレッドキーは、体勢を崩しながらも力強く地面を踏み込み、トバリの首にさやを突き出した。


 ドスンッ!


 重く鋭くこじりがめり込み、ガクン!と顔を落とし膝を着くトバリ。

 確かな手応えを感じたレッドキーは、鞘から刀を抜きつつ後転し距離を取る。


 だが、目を離した刹那───目の前にはいつの間にかシャーディの背中があった。


「お前は戦いの才能はあっても実戦経験は無いんだ。だから禁忌から一瞬たりとも目を離すんじゃねぇ。最悪、まぶたを切り落としてでも目を離すな!」


 真剣な声音のシャーディの、いつに無く広い背中にレッドキーは「フッ。一応…前より身軽になって足は速くなったんだけどな」と言って刀を構え直し隣に並び立つ。


「バカ言え。……お前には謝らないといけない事がある」


「…俺もだ。アンタに言いたい事がある! でも────」


「「まずは死ぬな!!」」


 そうして息を合わし、シャーディとレッドキーが同時にトバリに斬りかかろうとした瞬間───首の鞘を取りながらトバリが顔を上げた。


 ゾゾォッ!!


 ニタァと笑うトバリと目があった途端、背筋を氷の刃で撫でられたかの様な悪寒が2人を駆け巡った。


「っ!」「っ!?」


 シャーディとレッドキーは、即座に攻撃を止めトバリの視界から逃げる様に背後に回る。


 すると、ほんの一瞬までシャーディとレッドキーが居た場所がバクン!!と蒸発。家が入りそうな程の陥没クレーターが出来るのだった。


(コイツ…! あえて隙をッ! もし未来視された後だったら…っ!)


 最悪が脳裏を過りレッドキーは、冷や汗を掻いて余裕なく舌打ちをした。


(おぉっ! 良いねぇいねぇ! よし!気が変わった! 禁忌狩りゴキブリ共はまだ消さないでおこう。少しだけ、楽しめそうだ)


 立ち上がり手に持った鞘で肩をポンポンと叩きながら振り返るトバリ───。

 すると、2人とトバリの間にローウィンがテレポートしてきた。


「なぁおい? ボクに用があったんとちゃうんか?」


「んまぁそうだけど~。どちらかと言えばお前よりツクオ────」


「こっち見んなや」


 声に被せるローウィンは、トバリの顔を空間ごと握り潰しながら目にも止まらぬ速度で地面に叩き付ける。


 ダゴゴゴォオオオ!!!


 天地がひっくり返りそうな程に地面が大きく波打ち、ムチ打ちの様な衝撃波が広がり。ツクオミやアリス、他の禁忌狩りが吹き飛ばされる悲鳴が轟音に掻き消されていった。


 …揺れが止み。上から被った土や小石を震い落としながら体を起こすレッドキーとシャーディ。


 目の前にはローウィンとトバリの姿は無く。砂煙の中、抉れた様な陥没クレーターが一直線に地平線まで続いていた。


「な…なんだよこれ…ッ!?」


 目を丸くして唖然とするレッドキー。シャーディは立ち上がり、陥没と自分達の境目にバリアの跡を見つけ溜め息を吐いた。


「はぁぁ…。レッドキー、逃げるぞ」


「ぇ…お、おい!」


 シャーディの言葉にレッドキーは刀を地面に突いて立ち上がり辺りを見渡した。


 ほんの一瞬まであった商店街は見る影も無く、濃霧のうむの様な濃い砂煙に巻かれた街は、その大半が瓦礫の山と化し。所々では火の手が上がっていた。


 当然、吹き飛ばされたツクオミやアリス。その他の禁忌狩りの姿が見当たらず、声や他の物音すら聞こえて来ない。


 目の当たりにする惨状に動揺が隠せず余裕なく固まるレッドキー。

 その時、そんな街の奥から翼を羽ばたかせるヤナセが飛んで来た。


「ローウィン様ぁ! どこまで行く気ですかぁ~!?」


 バサッ!バサッ!


 ヤナセは砂煙を晴らしながら、遠雷の様な衝撃音が鳴り響く陥没の彼方へと飛んで行くのだった。


 …ヤナセを見送った後。シャーディは崖を背に足を進め初め、戸惑いつつレッドキーも後に続こうとした時。

 シャーディは立ち止まり、観念した様に深く息を吐いた。


「はぁぁぁ…。来るな。帰れ、レッドキー。……恨み言は後で好きなだけ聞いてやる」


 シャーデの息苦しさを誤魔化す様な溜め息混じりの言葉にレッドキーは「その事なんだけどな…」と近付く。


「入院中にハルマドン様から事情を聞いた。あの時、記憶を書き換えられて操られてたんだってな? それなら俺が親父を恨む理由は無い」


「──っ!? わざわざ、ソレを言いに来たのか!?」


 レッドキーの言葉によろめきながら足を一気に止め、シャーディは目を丸くして振り返る。


「んな訳あるか。どの道アンタは捕まる! 俺もそろそろ自立、親離れをしなくちゃいけなくなったわけだ。それに…トバリに、親父と俺の腕の分の礼はしないとだしな?」


 一緒にブチのめそうと誘うかの様にレッドキーは、ニヤリと口角を上げた。


「…フッ、何を言われるかと思ったけど。この程度でビビってる奴が何言ってんだ? 冗談は料理の仕方を聞くくらいにしておけ」


「へぇ? 驚いたな。腕を落とす以外に調理法を知ってるってか? 少し気になるが…それなら子供おままごとの方がよっぽど参考になりそうだ」


 そうしてレッドキーとシャーディが話をしてる中。ヤナセに全身を焼かれたトバリが流れ星の様に2人の遥か上空を通り過ぎ。

 鼓膜を震わす衝撃波が地上にまで伝わり、砂埃が舞うのだった。


 ズズズゥン…!


「……それで、ハルマドンさんに無理言って出してもらったのか?」


「まぁな」


「だったら尚更なおさら出直してこい!! 親に心配かけて何が自何時で親離れだ!? そんな体!戦う以前の問題だぞ!! このっバカ息子が!!」


 怒鳴りながらシャーディはレッドキーの胸ぐらを掴み引き寄せる。すると、高速で飛んでくるローウィンの流れ弾がレッドキーを掠め、間一髪で直撃を免れた。


 ゴォゥッ…!


「だから…! アンタが居なくても大丈夫だって事! 今から見せてやんだろ!! 子供の巣立ちは黙って見守ってろ! こ、このっ…! 分からず屋!!」


 レッドキーも負けじとシャーディを突き押す様に力一杯手を振り払い牙を剥く。シャーディが離れた途端、トバリが持っていた鞘が、どこからともなく飛んで来て、レッドキーは刀を納めると同時に受け止める。


 ガチィイン!!


「誰が分からず屋だ!! 俺が言ってんのは! 見守ってやるからまずは心配かけさせんなって事! 心も体も万全にしろ!! それに!せめて安定した職に就いてから物を言え!!」


 再び掴み掛かる親子の周りで繰り広げられる禁忌同士の戦いじゃれあいは、荒々しく賑やかでまるで不良の抗争だった。


   ◆


 その頃、ローウィンの叩き付けに、いつの間にか巻き込まれていたツェンシーは「あぁっ! クソッ!クソがッ!」と言いながら崖から生え出て来ていた。


「ったく、アタイが仕掛けてる所に被せてんじゃねぇよローウィンあのガキィ…! あぁ? …何やってんだよ? アイツら」


 ツェンシーの視線の先には、砂煙に巻かれる中、喧嘩してるレッドキーとシャーディの影があった。

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