28月 レッドキー


「はぁっ! はぁっ!はぁっ! くぅっそ…! だ、ダメ…! マジでッ! 出れないってぇえ!!」


 どこまでも続く真っ黒な亜空間内、手当たり次第に魔法を使ってみるも上級程度では全く意味が無く、壁や端は無いかと奔走。

 だが、ついに力尽き上向けに倒れるタナカは完全に油断していた自身の不甲斐無さに泣きそうになっていた。


「グスッ…泣くな!」


 そう自分に言い聞かせ涙を拭い体を起こす、まずは落ち着き冷静になろうと呼吸を整える。ふと、ポケットの月虹之髪飾げっこうのかみかざりを取り出して見る。


(防げるのは攻撃だけ…。思い出してみれば、テレポートとか出来てたなぁ)


「ってか、あの少しの間で、そんなに攻撃を受けてないのに、あのアウラウネそれを理解したって事でしょ? 禁忌狩りだから当然なのか分からないけど、戦い慣れって言うか…。相手が悪すぎるって。……」


 思わず苦虫を噛み潰した様に独り言を呟く。

 だが、ツェンシーを思い出すと同時にアリスの事も思い出し、気持ちが一変する。


(二重の大きな紫苑しおん色の目。長い睫毛まつげ…)


 特徴だけを上げればあり溢れたモノだった。だが、思い出せば思い出す程、妹と面影が重なり。

 タナカは「い、いや…いやいやないない!」と顔に付いた蜘蛛の巣でも払うかの様に全力で首を振る。


 意識してるからそう思えて来るんだと自分に言い聞かせる様に念じるも…。


 それでも────アリスが偽りの魔法を解いた時。本当の姿がだったら…?


“────タナカって家族いるの?”ふと、ツクオミの言葉が過る。


 ……正直、内心、予感はしていた。だが、否定したかった。自分が許せなかった。


「…………ぁぁあああああ!!もぉお! 止めだ止め!!」


 タナカは、グシャグシャと頭を掻き毟って立ち上がる。


「今はそんな事考えてる場合じゃないでしょ!? 早くツクオミの元に行って護らないと! アリスが妹かどうかなんて! 今はそんな事! …そんな、事…どうでも…」


 自分を奮い立たせようと声を大にするも、徐々に歯切れが悪く言葉を尻すぼみさせるタナカは、自分の頬をぺチンと叩いた。


 ダメだ…このままじゃダメだ。確かめなきゃ。勘違いでも良い、ここから出て、アリスに確かめなきゃ…!


「スゥゥゥ、ハァァァァァァ…! よしっ! 早く何としてでもここから出なきゃ! わたし、しっかり!」


 深呼吸をして冷静さを取り戻し、足を進めようとしたその時。ポケットに入れていた月虹之髪飾がこぼれ落ち。


「あっ…!」と声を漏らしながら急いで手を伸ばす。


 ピロロリン!!


 慌てて落ちた髪飾を拾い上げたタナカは「えっ、これって…!」と目を丸くした。


 なんと、髪飾が落ちた箇所に白いヒビが入っていたのだ。


  ◆◆


 ローウィンによってツクオミの体は破裂。ツクオミを抱えたアリスの腕には光を飲み込む程に黒い新月が浮いていた。


「なに…これ…?」何一つ理解が追い付かない様子でアリスは力無く呟いた。


 その場の全員が驚きに固まる中。ローウィンはヤナセから飛び降りて、怯む事無く新月に近付くと「は、はよ出て来んかい! アホオミ!」と声を掛ける。


「もぉトバリんねんぞ! エエんかぁ!? トバリなんかに全員やられてもエエんか!? タナカと2度と会えなくなってもエエんか!?」


 ピリン!


 その時、ローウィンの声に反応する様に新月から波紋が放たれ空気を震わせた。


 すると、空が徐々に暗くなり始め。あっと言う間に世界は正午から夜に包まれるのだった。


「これは…っ!? 皆さん! わたくしの元へ集まるのです!」「一体なにが起きてる!?」「なっ! なんだ!?」「うわぁ! 真っ暗ぁだよぉ!」


 あまりの急激な状況の変化に慌てふためく禁忌狩り。ヤナセは「な、何が起きてるのですか!? ローウィン様!!」と声を荒げる。


 目を点にして固まるローウィンは「ぇ…は? いや…。ボクはアホオミに体を捨てて復活すればエエって教えようとしたってだけやで…?」と独り言の様に呟いていた。


「まさかっ…! トバリ!?」


 気を取り戻したアリスは、周りに魔法の動きは無いかと警戒を強めて新月を大きな胸で抱えようとした。


 だが、まるで何も無いかの様にアリスは新月に触れる事が出来なかったのだ。


 見れば、いつの間にか新月は雲の様な月明かりの羽衣をまとい、徐々に満ち始めていたのだった。


「ツクオミ、様…?」


 思わず声を漏らすも新月は、二日月から三日月になったところで満ちは止まり。


 満ちてない影からポロッと取れる様に、月明かりの羽衣を纏った三日月はアリスの目の前の地面に突き刺さった。


 ピロン!


 一連の流れにその場の全員が見守る様に固まる中、アリスだけは何か察した様子で、三日月に手を伸ばし握った。


 そして、雑草でも引き抜く様にグッ!と力を込める───スポーン!


「…え?」「なっ…!」「はぁ!?」「わぁっ!?」


 大口を開け目を見開き、声を揃えて驚く禁忌狩り。


 それもそのはず、アリスが引き抜いた三日月からは無傷のツクオミが出てきたからだ。


「…! つ、ツクオミ様ぁ!!」ガバッ!


 アリスは涙を滲ませながら、目を瞑ったまま立ち尽くすツクオミを抱き寄せた。


 魔法では無い未知の復活劇に、ローウィンはツクオミの得体の知れなさに戸惑いを隠せずにいた。


「ふ、ふ~ん? わややややっやややるやん? そ、そそれくらい、できゃでくできれデキテトーゼンやしな?」


 プルプルプル…


「真顔で何を言ってるんですか? 震えも誤魔化せてませんし…。しかし…話には聞いてましたが、これはちょっと……」


 参ったと苦笑いを浮かべるヤナセはツクオミから目を反らし空を仰ぎ見る。

 いつの間にか真っ黒だった空は、元の仄暗さに戻っていた。


「お怪我は!? ああ!無事そうでよかったです!!」


 ペタペタと体の状態を確かめ、ツクオミの頭を撫で素アリスだったが。


「へぇ~、面白いねぇ!」と空から若い男の声が聞こえてきた。


「っ!?」「この声…っ!」「来たな…!」


 突然の声に反応し咄嗟に身構えるアリス達。


 完全に気を抜かしていた禁忌狩りも遅れて態勢を整えて上空を見上げた。


 ツクオミは「タナカ…?」と寝ぼけた様子で目を開けた。


 その時────ゾァアッ!!


 突然、カーテンを一気に開けたかの様に、雷雲で重苦しかった空は一瞬で太陽が昇る晴天へと変わったのだ。


「きゃっ!?」「うぐっ!」


 アリス達があまりの眩しさに悲鳴や呻きを上げ、顔を伏せる中。


 ツクオミは、ハッ!と我に返ったかの様に空を見上げると、正午の太陽に被さる日食の様な禍々しい黒い裂け目が合ったのだった。


 ドォウン…ッ!


 途端、見上げるツクオミに反応する様に裂け目から重力の魔法が衝撃波の様に放たれ。

 ツクオミとローウィン以外の全員が押さえ付けられる様に地面にひれ伏した。


 ズシゥン!!


「かはっ…!」「く…っ!」


 アリスとヤナセが息を漏らし、禁忌狩りの4人も同様に顔をしかめて地面に顔を押し付けられていた。


 それでも、ツクオミは睨む様に裂け目から視線を外す事無く。

 ローウィンもニヤリと笑みを浮かべながら「遅かったやないか」と裂け目を睨む。


 そして、裂け目から人々を導く神の様に両腕を広げる、ボサボサとした白髪の若い細身の男性。トバリが現れる。


 トバリはニコッと爽やかに微笑んで声を張り上げた。


「やぁみんな~! はっじめっまっしてぇ~! うんうん!ひれ伏して出迎えてくれるなんて俺様感激だよ~!」


「ローウィン様…!」


 トバリの登場に何とか起き上がろうとするヤナセだが…。

 まるで地面ごと持ち上げようとしてるかの様に、体が重く声を絞りだすので精一杯だった。


 しかし、ローウィンは「ふん、安心せぇや。ボクらが動くまでも無いわ。調子こいて気付いてへんわあのトバリアホ」とヤナセを横目に言った。


 トバリは「でも生憎あいにく…」と広げていた腕をダランと下ろし、スッ…と地上に向けて片腕を突き出した。


 途端、動けない禁忌狩りとアリス達の体が赤い光りに包まれ始める。


「用があるのはそこの2人だけなんだ。ゴミ共は消し飛ばすから大人しく────」


 ザシュッ!!


 その時トバリの背後の裂け目から、謎の黒い一閃が走り、トバリの首をあっという間にね飛ばしたのだ。


 目を丸くするツクオミは「わ…っ! お、お兄さん、誰…!?」と目の前に着地した、刀を持つ隻腕せきわんで小太りの、さやを咥えたどこか草臥くたびれた狼男を見上げた。


 トバリの重力の魔法が解け、「え、誰…?」「き、君は…! その腕は!」と困惑しながら体を起こすアリスとヤナセの様子に対し。


 立ち上がったシャーディは「お前…!」と信じられないモノを見れるかの様に声を漏らした。


 隻腕の狼男は口に咥えた鞘に刀を戻し腰紐に引っ掛けるとシャーディを睨んだ後、ポンとツクオミの頭を撫でた。


「君がツクオミ君だね。ってかタナカさんから俺の事聞いて無いのか?」


 その言葉に何も分かって無さそうなツクオミの様子に狼男は、普通言わないとかあるかよ…と顔を引きつった。


「はぁ、君の親。あんだけエラそうな事言ってて無頓着むとんちゃくなんだな。俺は、レッドキー。元禁忌狩りの…ただのオタクだ」

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