月が回る
丫uhta
出会い
1月
深夜、
「あぁ…?」
塞がらない口から声を
このビルで働くうだつの上がらないエルフの女社員だ。
突然だが、今、私の手の中には“三日月”が収まっている。
私はコレを、一体どうすれば良いのか分からずにいた…。
何とも言えない仏頂面のタナカは、軋み音を鳴らすが如く、ぎこちなく首を動かして夜空を見上げる。
そこには先程まで、街を照らしていた三日月が影も形も無くなっていた。
──十数分前──
「はぁ~!タナカちゃんお疲れ~。先上るね~」
向かいの席、同僚の女ゴブリンのマトが小さな体を反らせて伸ばしながら立ち上がった。
「うん、お疲れ様~マトちゃん。手伝ってくれてありがとう。帰りの交通費出すよ」
パソコンのキーボードを打つ手を止める訳にはいかない私は、浮遊魔法で足元のリュックから財布を取り出した。
ふわふわと、浮かび開く財布に気付いたマトは「良いよ良いよ! あ、そうだ!はいっコレ!」と言ってタナカの机に缶コーヒーを置いた。
コン
「っ! え?マトちゃんコレって…!」
思わずキーボードの手が止まり、隣までやって来たマトに振り返る。
ゴブリン特有の小柄な体躯に鶯色の肌、カチューシャで髪を纏めて広い額と小さな角を見せるマトは「私コーヒー飲めないの。押し付けてるみたいになってゴメンね」と少し申し訳なさそうに言った。
「謝らなくて良いよ!
机の缶コーヒーを大事そうに両手で包んだタナカは、誠心誠意込めてマトに頭を下げた。
「ちょっと大袈裟だよ~? 社長も言ってたけどタナカちゃんはもっと肩の力抜いても良いと思うなぁ~」
「う、うん…」
恥ずかしそうに顔を上げるタナカにマトは、優しく微笑むと「それじゃあね」と言って部屋を出て行った。
◆
集中力が切れたタナカは、マトから貰った缶コーヒーを片手に、休憩がてら風に当たろうと屋上へ上がっていた。
300年前。人間と妖精とエルフ等の弱者による下剋上戦争で王政がひっくり返った。
そこからは技術を持つゴブリン、魔法を活かすエルフ、知恵を活かす人間によって急激な文明開化。
戦争からたった数十年足らずで力が全ての時代から、柔軟かつ優秀な才能と能力が求められる時代となったのだ。
「──肩の力を抜く、か。抜いてる気だったけど、まだまだなのかなぁ…。はぁ、あれから300年、実感湧かないなぁ…」
屋上の手摺に
その時、夜空に浮かぶ三日月を見上げた。
「
タナカは言いながら腕を伸ばし、三日月を摘まむ様に指で挟んだ、その瞬間。
──ピロン!
どこからか不思議な、音が聞こえタナカは「何だ!?」と言いながら辺りを見渡した。
しかし、屋上には自分以外居らず、夜風の中。煌びやかな街の喧騒だけが聞こえていた。
(何だったんだ…? ん?)
月に伸ばした手に違和感を感じたタナカは、何気なく手を開き視線を落とした。
タナカの手には、三日月が収まっていたのだった。
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