洋館から始まる怪奇の行方は・・・

子狸たぬたぬ

第1話 悪夢

つい最近、悪夢を見るようになった。朝起きたら内容のほとんどを忘れているのに、どっと疲れを感じる。冬だというのに、起きたらじっとりと汗をかいていた。


その日は、とても夢見が悪かったので、何か悪いことの前触れじゃなければいいのにと、朝から憂鬱だった。


私は昔から霊感が強いようで、色々と悪いものを引き寄せてしまうらしい。

霊感があるからといって、対処する方法が何かあるわけではないのだけど・・・。


なるべく心霊スポットなどに行かないようにしている。

私はそんな体質なのに、恐がりだった。


 その日は、朝から何だか騒がしかった。母の「七美、いつまで寝ているの?早く降りてきなさい」という大声が聞こえてきた。「分かってるわよ」と私も大声で答え、階段を下りて行きリビングに向かった。


朝食のいい匂いが漂ってきた。私がリビングに入ってすぐに、母は「やったー。七美、さすが私の娘!」と言って、抱きついてきた。


「ママったら、どうしたの?」と私が聞くと、「ママ、七美のためを思って、歌手のオーデションに応募していたの。それで、一次審査の合格通知が送られて来たの!」と言って、キャッキャと騒いでいた。


私は驚いた。何てことしてくれるんだ!


母はまるで自分の事のように喜んでいた。私は昔から母にピアノを習わせられていて、中学では合唱部に所属していた。


私は私立の女子高にストレートに進学して、高校でも部活は合唱部に所属した。高校は合唱部に力を入れていて、毎年コンクールに入賞するほどの実力があった。


そうかと言って、私は歌手になるほどの実力はあっただろうか?首を傾げる。


母は朝からテンションが高く、機嫌がいい。

「二次選考頑張ってね!お母さんがマネージャーをするからね」と言って、張り切っていた。


私が芸能人だなんて、考えたこともない。自分でもそんな世界は遠いと思う。

学校では地味で目立たないのだ。眼鏡をかけていて、いつもうつ向いている。

そんな私が、芸能人だなんて!


母は何も分かっていないのだ。でも、一次選考を通過できたと思うと、満更ではない気持ちがして胸の鼓動が高鳴った。

私はこの時、自分の霊感体質のことを、すっかり忘れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る