他者と始まる異世界道楽

指ス満

第1話 お呼びでないなら呼ぶなっての


 ネトゲ is my life







 俺の座右の銘だ。




 ヒョロガリ長身の俺、飯島一樹(いいじまかずき)は、高校に進学したは良いものの一度も高校に行かず、ネトゲ三昧の日々を送っていた。












 いや、不登校ニートじゃないから!



 中学の時はちゃんと行ってたから!







 まぁ、俺がニートかニートじゃないかなんて話はどうでもいいだろう。







 そう、俺は異世界に召喚されたのだ。


















 …………巻き込まれた一般人として。























 あれは蒸し暑い夏の日だった。


 俺はいつものように高校には行かずネトゲをプレイしていた。


 

 まぁ最近は在宅ワークなんてものが流行ってるしな。

 同じようなものだ。 


 

 俺はネトゲの世界ではそこそこ有名なプレイヤーで、「セイドロウ」の二つ名で知られていた。

 これは「cowardice」(卑怯)の「wardice」の部分を逆から読んでちょっと捻っただけである。



 ………実に不愉快だ。



 まぁ…敵プレイヤーを後ろから毒草で薬漬けにしたり、弱っているところを正々堂々(?)と襲いかかるプレイ方法を好んではいるが。


 最終的には、街を歩いてるだけで決闘を申し込まれる始末。




 俺そんな悪いことしたかな?






 俺はいつものプレイ方法でPK(プレイヤーキル)を楽しんでいた。




 「卑怯な手使ってんじゃねぇよだぁ?」

 「引っかかったほうが悪いんだよヴァーカ!!」



 ……こりゃ嫌われても仕方ないな。




 とは言え、性格はそうそう変えられるものではない。

 恨むなら、こんな性格にした神様とかを恨むんだな。



 「さてと……戦利品、戦利品〜っと」



 倒したプレイヤーの持ち物を漁る。





 「ん?なんだこりゃ」




 見慣れないアイテムを発見した。

 



 「………異世界からの招待状?」



 俺はかれこれ3年ほどこのゲームを続けているが、こんなアイテムは見たことない。





 「……うっし、こいつ貰ってくか」

 




 その判断が間違いだった。


 




 



 街へ戻った俺は、さっき倒したプレイヤーからパクっ……じゃなくて、貰い受けた「異世界からの招待状」を確認する。



 「なんじゃこりゃ。説明欄になんも書いてないぞ」



 運営のミスか?


 

 「………でも売るのも勿体ないしなぁ」


 「よし!リスクは承知の上で使ってみるか!」



 俺は使用すると書かれたボタンにカーソンを当てる。







 カチッ







 パソコンの画面が煌々と光る。












 「へ?」


 








 俺はパソコンから放たれた光に包まれる。













 

 この日、世界から5人の人間が忽然と姿を消した。



 ………え?1人じゃないのかって?





 どうやら俺は……










 部外者側の人間だったらしい。




















 目を覚ますとそこは、豪華な装飾物が飾られた無駄に広い部屋だった。


 俺の他に、制服を着た男女が倒れていた。

 男女というか男女女女。


 古き動画投稿サイトを思い出す。






 「おぉ!よくぞ来てくれた。選ばれし勇者達よ」






 豪華な装飾品を身にまとった、小太りのおっさんが偉そうに話す。

 こういう権力を振りかざしてきそうなヤツは嫌いだ。

 

 前世でも、俺はギルドマスターだからお前をキックする権利はあるだとか、俺は運営の一人だからお前をBANできるとか言って権力を振りかざしてきたヤツがいたからな。


 まぁ、もれなく全員得意の卑怯戦法で叩きのめしてやったが。




 「ぅん?……ここは?……」


 男女女女グループの男子生徒が目を覚ます。


 男女女女グループとか語呂悪すぎだろ……。



 「に……新島君………。ここどこなの?」



 男女(以下略)グループの黒髪清楚系の女子生徒が男子生徒の腕に抱きつく。



 あいつ新島って言うのか、微妙に名前似てるし………。

 ムカつくな……。



 「修也!無事か!?」



 今度は褐色肌のボーイッシュな女子生徒が新島の肩を掴む。


 新島修也………。主人公っぽいようなぽくないような。



 「……修也。ここどこ?」



 ロリロリした女子生徒が、眠たそうに新島の服の裾をキュッと掴む。




 クソっ!情報量が多い!





 キンキラ小太りが咳払いをする。


 「改めて……。よくぞ来てくれた勇者達よ!歓迎するぞ!」



 あ〜はいはい、その手ね。

 どうせ魔王とやらが攻めてきてるから、ぶちのめしてこいとか言うアレね。



 「勇者?……。一体何の話ですか?」


 


 新島君はなかなか良い反応をするな。




 「うむ。実はのぅ、この世界は魔王に支配されているのじゃ」

 「お主らには勇者として、この世界を救ってほしいのじゃ」



 ほらやっぱり。



 てか魔王って倒して良いもんなのかね。

 

 魔王が死ぬ事によって、今まで怯えていたモンスター達が活発化するとか。

 魔王という一大勢力がなくなった次は、国同士の戦争が始まるとか。


 こいつらは後先のことを考えているのかね。



 

 「それでは勇者達よ。まずは自己紹介からお願いしていいかのぅ」



 新島が口を開く

 

 「……じゃあ俺から」


 「俺は新島修也(にいじましゅうや)。17歳です」


 

 こいつ同級生だったのか。


 続いて、黒髪生息系、ボーイッシュ、ロリロリの順で自己紹介をする。



 「わ…私は海辺美里(うみべみさと)17歳です…」


 

 「私は中月杏(なかづきあん)!17歳だ!」



 「………口無静(くちなししずか)…17歳」




 やっぱこいつら個性強いな。






 海辺がこちらの存在に気づく。


 「あ…あの……あなたは?」



 「え?あ、あぁ」

 「俺は飯島一樹、17歳だ」



 「じゅ…17歳?」




 なーんでそこに疑問を抱くかね。


 まぁ、たしかに俺は身長180以上あるし、夜更かしでできた隈も相まって、人生に疲れたサラリーマンみたいだって家族に言われたことあるけど。





 「修也に、美里に、杏に、静に、飯島………。」

 「……よし分かったぞい」




 おいおっさん。なんで俺だけ苗字。



 「では修也よ、ステータスと言ってみてはくれんか?」



 「わ…分かった……」


 「ステータス」



 「………うわっ!なんだこれ!」



 新島は何もない空間を見て驚いている。



 「称号…………勇者?」



 「おぉ!やはりそなたが勇者であったか!」



 王宮がざわめきに包まれる。




 「他の方々も確認してはくれんかの?」


 「「「「ステータス」」」」



 「わ…私は聖女って出ました!」


 「おっ!私は剣豪だってよ!」


 「………賢者」


 どうやら修也パーティーはレア称号を引いたらしい。

 一方の俺は……



 「あの……」


 「なんじゃ?」



 「異世界召喚に巻き込まれし者って出たんですけど……」 




 「なんじゃと!?」

 「もしやお主は勇者ではないと言うことか!?」


 「ま、まぁ……そういう事になりますかね……」

 


 王様はわなわなふるえている。



 「衛兵!今すぐにコイツをつまみ出せ!」




 「……はぁ!?ふざけんじゃねぇよ!」

 「勝手に召喚しといて追い出すのかよ!?」


 「うるさい!用無しはとっとと出ていけ!」




 コイツ…………。言わせておけば……。





 「へぇ?………そんな口聞いていいのかよ?」


 俺は挑発するかのように言った。


 「なんじゃと!?」



 よしよし、かかったな。



 「おっさん。まだ、こいつらが勇者ってことは公表しないだろ」

 「まぁこいつらは召喚されたばっかで、まだ力を使いこなせないしな」


 「………それがどうしたと言うのじゃ」


 どうやら図星のようだ。



 「俺がこのまま魔王側に寝返ったら、どうなるかわかってますよね?」

 

 「一体どうなるというのじゃ」


 「まず、俺は真っ先に勇者の存在について言うね。勇者を殺して、あとはそこら辺に魔物をほおっておいたらこの都市は壊滅するだろうし」

 「それに勇者として召喚された俺が魔王側につきました、なんて話がでたらあんたの評価はだだ下がりするだろうな」

 「場合によっちゃ王を退位させられるかもしれん」





 「俺の言ってる意味、わかるよな?……」





 「わ…分かった……。お主を追放するのを取り消そう」


 「だがな王様。俺もそこまで悪じゃない」

 「ちゃんと出ていくつもりではいるさ」


 

 「ほ、本当か!?」


 王様は分かりやすく嬉しそうな顔をしている。




 「あぁ。出ていくとも」

 「………それ相応の詫び金をもらえるならな!」


 「き…金貨100枚でどうじゃ」


 

 俺には通貨の価値は分からんが……。まぁ、この王様のことだ、少なめの金額なんだろうな。


 「1000枚」


 「せ、1000枚!?」

 「いくらなんでもお主……それは…」



 「あ〜あ!このまま寝返っちゃおうかな〜!」


 「わ、分かった!払う!1000枚払うから勘弁してくれ!」



 最初からそういえば良いものを……



 俺は王様から金貨1000枚が入った袋を貰う。





 「低……」


 褐色ボーイッシュの中月が小声で呟く。


 「なんだよ」





 「最っ低!」 



 ………コイツは何を言ってるんだ?

 頭お花畑か?

 

 この成金デブは俺のことを着の身着のままで追い出そうとしたんだぞ?


 そんなこともお構い無しに中月は口を開く。


 


 「あんたそれでも勇者なの!?」



 「だから俺は勇者じゃない。ただの巻き込まれた一般人だ」 

 「俺はお前らみたいに強い称号を持ってないのに、追い出されそうになったんだぞ?」

 「俺にこの金を貰う資格は充分にある」



 「そ、それでも!あんたのやり方は最低よ!」



 「やめないか杏!」


 新島が中月を止めに入る。


 

 おぉ新島。やっぱりお前はイイ奴なんだな。

 お前なら分かってくれると思ってたよ。




 「あんな奴に関わらないほうがいい」




 ………お前もそっち側かよ。




 新島が俺を睨む。


 「飯島さん………。俺はあなたに幻滅した」

 「いい人だと思ってたのに……」



 「………勝手にそう思って、勝手に裏切られたんだろ」

 「お前が思ってるほど、人間優しくねぇよ」









 俺はそう言うと王宮をあとにした。

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