SHIELD_BINDER―シールドバインダー

「隻翼ならそういうかと予想していました。ドヴァリンとドゥリンはホークを改良してあなたの戦力を拡張します。テュールは戦略面で、エイルは戦術面であなたをサポートします。そして私があなたの手脚となるキャリアーとなるのです。私達は仲間ではなく施設や道具だと割り切ってください」

「それは厳しいな。いまさら道具とは思えない」


 何から何まで調達、作戦立案までしてもらい、施設として割りきることなど隻翼にとってははいそうですか、といえるようなものではない。

 とくに彼女たちは生体をもち、ともに食事をしている。施設や道具扱いなど出来るわけがなかった。


「とはいっても私達はあなたに仲間意識をもっていますから、命に代えても護ってみせます」


 ロズルはまた儚げに微笑む。おそらくは自己犠牲を覚悟しているのだろう。


「ロズル! それ私のセリフ!」


 保護を司るゲニウスのエイルが横から抗議する。


「やめてくれ。俺は捨て置いてくれ」

「ダメです」


 隻翼の悲鳴に似た抗議にくすっと笑うロズルが、隻翼の願いを一蹴する。


「感情だけで割り切れませんよね? それは私達も同じです。あなたが私達を仲間だと思ってくれるなら、それに優る喜びはありません。それでも私達は人工知能の一種。機械です」

「一緒に飯まで食べる機械はいない」

「それでも私は兵器で――アルフロズルは戦車といっても主砲さえもろくに使えない状態です。戦力としては一切期待しないでください」


 ロズルは無念さを隠さない。本当は戦車としても隻翼をサポートしたいのだろう。

 過剰なまでに隻翼を突き放す発言はその無念さを隠すためだったのだ。


「気持ちだけで十分。危険だから頼みたくないぐらいだ」

「隻翼は優しいですね」

「同行拒否はしないのだから優しくはないだろう」

「先ほどエイルもいいましたが、作戦に失敗したときは隻翼を回収して逃げますよ。それはもう全力で。地球や金星にでも行きましょう。そしてまた襲撃しに帰還すればいいのです」

「一度地球や金星に行くのもありなのか」

「ありです。大いにありです。各地に散らばるゲニウスのスフィアを回ってもいいですし、遺跡で新装備を探索することもよいでしょう。私の兵装も探してください」


 ロズルが火星と地球を表示させる。火星とは違う意味で戦乱が広がる惑星だ。


「アルフロズルの兵装は早めに揃えたいな」


 隻翼はアルフロズルの本体を安全にするためにも、兵装確保の優先順位は高いと判断する。

 他惑星への航行は思ってもいなかった発想だった。

 ライフワークにするなら、地球や金星にいってもいいだろう。そこならまだ見ぬ遺跡もある。


「私達は常にあなたの味方です。忘れないでください」

「恵まれすぎた環境で目眩を覚えるよ」


 苦笑する隻翼に、ロズルは微笑みを浮かべて見つめていた。


 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 


 ドワーフ二人がティルフィングのオーバーホールを行った。モスボール化していたものの数百年稼働していない機体を万全の状態にせねばならない。

 鎧姿のエイルも立ち会っている。



「問題はここからですね。基本武装はこの状態。両手サーベルのティルフィング。シールドバインダーに内蔵ライトイオンビームライフルのみですか?」

「隻翼の希望でデトコードを仕込んでいるぐらいだな。場所は取らん」


 爆轟線と呼ばれるデトコードは作業のための多目的ツールだ。隻翼も愛用している兵装だった。


「シールドバインダーにはまだ余裕ありますよね?」

「無論だ。最低限の武装しかつけておらん」

「用途に応じて各種兵装を内蔵できる。そのための結束具バインダーだからな」


 ドヴァリンとドゥリンも武装候補を模索しているようだ。シールドもアクロニムであり、防御面も兼ねているが本来の用途は武装結束具だ。

 Scabbard(鞘)、Hard-point(武装接続)、Itegration(統合)、Equipment(装備)、Lump(集合体)、Defense(防御)の頭文字を取ってシールドと呼んでいる。本来の機能は盾を兼ねた武装を収納する鞘なのだ。


「作戦に応じた武装を考えないといけないかな。隻翼の希望が聞きたい」

「主兵装は継戦能力と威力が両立したものを。あとはティルフィングでなんとかする。足りないものを他の兵装で補いたい」

「了解しました。ではシールドバインダーから解決しましょう。ドヴァリン。シールドバインダーの積載はまだ兵装が搭載可能でしょう。どれぐらい余裕がありますか?」

「大抵のものは搭載できる。継戦能力を重視するならガトリング。破壊力なら滑空砲かミサイルだろうな」

「ビームランチャーがありますから実弾は必要ないでしょう。必要なら肩部兵装で補えます。大型対艦ミサイルなら?」

「二発が限界だな」

「十分です。右背面の兵装候補は?」

「エイルのいうとおりだな。対空防御兵装で検討している。機関砲は両方砲として運用可能だ。対空ミサイルもセットだ」

「機動力に影響は?」

「サイズによる。大口径で弾を積んだら機体が重く、遅くなる。小口径は軽量だがNM装甲相手には心許ない」

「他に武装案は?」

「大口径砲だな。火力などいくらあっても困らない。それともどでかい対宇宙艦ミサイルでも搭載するか? しかしホークに搭載できる程度の対艦ミサイルなんて何発叩き込んでも宇宙艦は落とせんぞ」

「宇宙艦相手なら警戒させればそれで十分です。ティルフィングの戦術は一撃離脱。長所を伸ばすか短所を潰すか。どちらが好みですか? 隻翼」


 エイルがドヴァリンたちから隻翼に話を振る。使用者の意思は重要だ。

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