自己防衛したいのが気に入らないのか?!

コトプロス

第1話 鏃が欲しかったと供述しており……


 やべぇよやべぇよ……アイツやられそうやん……

 どうすっかな……自分が対処しても良いけど、どうして奴を倒せるんだサバ読んでたのか!ってなるよなぁ……


 でも、見殺しにするのは後味悪いし……うぅむ……


 いま俺の目の前で華形皐月はながたさつきって娘がモンスターと戦ってるんだよ、で、結構押されてる……


 まあ正直自分なら苦も無く倒せるんだが、「アレは危険なノコギリオオカミ!あなた達は下がって!私が!!」って言って飛び出して行ってあの体たらくなんだよなぁ……


 でもここで物語の主人公の様に「いや、俺が倒す!任せてくれ!」なんて言わないのが俺ちゃんこと太田留治郎ただとどじろうなんだよ。


 何故かって?可哀想じゃないかって?


 まず第一にあの女はプライドが高い。それもかなり。

 このクラスの代表として〜みたいな事を常に言ってる上に私が1番強いんだから皆を守らなくちゃ……みたいな状況に酔ってる。

 

 ここで自分がアレを倒しても「ありがとう助かります!」ってなるなら良いんだが、十中八九「なにするの!弱い奴がじゃましないで!」とキレるのが目に見えてるんだよなぁ。


 そして第2に、自分が本当は結構強いって事を知られたくない。

 そんなに強いなら〇〇してくれよ、とか俺達のクランに入ってくれよ、みたいなのが湧くからな。


 俺は名前を売りたい訳じゃない。自己防衛、モンスターが出た時に自力で対処出来るだけの力が欲しかっただけで……それ以上の事は望んで無いのよね。


「何ボサッと見てるのよ!早く逃げるなり助けを呼ぶなりしなさいよそこのグズ!!」 


 ほらね、チラっとこっちを見て言うに事欠いてコレですわ。


 いやーでもなーノコギリオオカミの牙が欲しいんだよなー。


 しかし負けん気が強いからここで自分が出ていってあのオオカミをシバいたら逆恨み始めるだろうし、どうしたもんか。


 まあとりあえず見えない位置にまで距離取る。



「ハアッ!このっ…キャア!!」


 おっ、ぶっ飛ばされた。


 あ、ガブリと行かれそうなのに動けないでやんの。


 しからばコレを……


 俺はポケットから小瓶を取り出す。


 爆速で駆け寄って、右手で瓶の内容物を皐月の顔に放ちつつ、左拳でノコギリオオカミの鼻っ柱をぶん殴る。


 ベキリ、と鼻梁を砕く感触と共にノコギリオオカミがドサリとその巨体を横たえる。


 「えっなに……あん……」


 寝たか。ボロボロの状態で鎮静剤が回れば寝ちまうよな。ヨシ!


 ノコギリオオカミのキバがクラスメイトのご注文の品だったんだよな。


 さて、じゃキバ引っこ抜いて帰るか。


 一応コイツは迷小屋に預けていくか。



────────


 街の探索者学校───


「虐殺者の育成はやめろー!」「モンスターにも生きる権利があるー!」「人殺し養成機関は潰せー!」「税金ドロボー!」「彼らはモンスターじゃなくて新しい地球の仲間だー!」「かわいそうだろ!!」「命を大事にしろー!」



 今日も平和だなぁ、さてさて昨日のオオカミのキバはいくらになるかな?


「太田留治郎!お前に話がある!」


 げえっ、校門くぐった先に昨日の皐月氏が……クラス代表様に睨まれたく無いんだがなぁ



────────



 空き教室にて眼の前で机をバンバン叩きながら喚く。


「誰がやったの?」


 何を?


「とぼけないで、ノコギリオオカミを誰が倒したのかって聞いてるの!!」


「自分は逃げたんで何も知らないッス……」


「だったらなんでアタシは小屋で寝てたの?あのオオカミは?」


「あぁ思い出した、ちょうど通りかかった探索者がぶっ飛ばしてくれたんだよ。その後自分が探索小屋まで運んだんだ。気絶してるみたいだから運んであげてって言われてさ。」


「気絶?アタシは一応人を呼んで軽く見てもらったのよ。後に残るといけないからね。するとアタシの顔には鎮静剤の成分がこびりついてたらしいじゃない。それにアタシ見たもの、ぶっ飛ばされて朦朧としてる時にアタシの前に現れてオオカミを殴りとばしてる誰かを!アタシきっとその人に眠らされたんだと思うの。」


 やべっ、顔みられたか?卒業したら地元に帰りたいから強いってバレる訳には行かないのに……


「それでね!!私その人に直接会ってお礼をしたいのよ!颯爽と助けて風の様に居なくなる!カッコ良いじゃない!きっとクールな人だわ!アンタ顔見てるでしょ?教えなさい」


 黙って去ってる時点で関係を持つつもりは無いって言ってるのが分かんねぇのかコイツは!普段モテないタイプの人間の行動をあげつらって「空気読めないわねぇ!」とか言ってるクセに空気読めねぇ奴だな。


「いやぁ、それが騒がれるのが苦手だから黙っててくれって言われてて……それに自分もあの一瞬しかやりとりしてないから詳しい事は何も……」


「使えないわねぇ……きっとイケメンでどんなモンスターも颯爽と現れて凄いパンチで仕留めるんだわ!あの威力だものきっと凄い探索者のハズ、アタシに相応しい人だと思わない?」


 そっすね………ん?凄いパンチとか威力とかよく見てるな?


「あの後目覚めてから、近くにいた探索者に事情を説明してノコギリオオカミの居た場所に行ったの!そしたら牙を全部抜かれて頭部が崩壊してるノコギリオオカミが居たわ。次の手掛かりはノコギリオオカミの牙ね。マーケットに出品されてたらその出品者と繋がってる可能性があるもの!」



 皐月が推理を披露していた直後に空き教室の扉がガラッと開く。


「あーっ!居た居た!早くノコギリオオカミの牙ちょうだいよ!学校終わったらすぐに持って行くって言ってたのに来ないから探し……た………よー……あ、お邪魔しました〜」


 そろそろと扉が閉まった。………アイツさぁ………


「ちょっと来なさいそこの生徒!!確か、半蔵暦はんくらこよみさん!来なさい!!今ノコギリオオカミの牙と言ったわね?!」


「ぴぃ!違います違います!飲み切る大甘味って言ったんです!あま~いジュースがマイブームでしてててて」


「ちょうだいって、まるでこのボンヤリした男がノコギリオオカミの牙を持っていると知っている様な言い方じゃないの!!」


 しめた………皐月の注意が暦に移っている今のうち……… 


 俺は窓からダイブして中庭に着地するとダッシュで逃げる。


「あーっ!!トドが逃げた!!待てー!鏃の材料ー!」


 あっバカこっち来んな!


「やじりの材料………まさかアイツがオオカミ系モンスターを倒して素材を提供している……?まさかな……」




─────────



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