勇者パーティーの魔王様。〜勇者パーティーの募集見かけたので加入したら、最弱勇者パーティーでした。弱すぎるので魔王の俺が育てることにしました〜

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勇者パーティー

街の近くの森の中。


「やぁ!」


 ぽよん。


「きゃっ!くっ!やるわね!」


 腰まである燃えるような髪の紅眼の少女が強敵を睨みつけている。


「はぁー!」


 スカッ。


 ぽよんっ!

 

「くっ!……殺せ!」


 強敵に斬りかかるが避けられ、反撃をもらった女騎士が地面に倒れ、悔しがりながら言葉を零す。


「炎を!我が敵を焼く尽くせ!――ファイヤーボー……」


 ぽよよん!


「あ゙!……グフッ!」


 丸いフォルムの強敵の体当たりにより、ローブを纏った金髪の男の手から杖が弾き飛ばされたあと、男も弾き飛ばされた。


「あ~……。たすけてぇ~」


 ぽよん!ぽよん!


 目元まで隠す銀髪の巨乳の修道服の少女が地面に倒れ、お腹の上を半透明の強敵が跳ねていた。


 カランッ。


 少し離れた位置から、その光景を呆然と見ていた俺の手から杖が落ちる。


「なんだこれ。……これが勇者パーティーなのか?」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 時は少し遡り。


 とある街の冒険者ギルドでの出来事。


 俺は掲示板の前に立ち、様々な依頼を眺めていた。


「スライム討伐、森林狼討伐、薬草の採取に……なんだこれ?空き家の掃除?う~ん。面白い依頼がないなぁ~」


 端から端まで舐めるように見ていくと、1つだけ面白そうな求人募集が見つかった。


【冒険者募集!】勇者パーティーの一員になりませんか?

 世界を救う使命、ここにあり!

 こんにちは、我々は魔王討伐を目指す勇者パーティー です!

 長年続いた魔王軍の脅威を終わらせるため、志を同じくする仲間を募集します。

 未経験者歓迎、私たちと一緒に世界平和を目指しましょう!

 アットホームなパーティーです!


「ほぉ?ほぉ~?」


 勇者パーティーの募集だって?しかも、魔王討伐?へぇ~?


 ちょっと気になるね。なんで、気になるかって?そりゃ、俺が魔王その人だからなんだよね。


 俺を討伐するメンバーが、どんなのか気になるのは当然の事だと思うんだよね~。


 え?魔王がなんでこんな所にいるのかって?


 そりゃ、毎日が暇だから冒険者の真似事をして遊んでるんだよね。


「いや~、いい暇つぶしが出来そうだ♪」


 掲示板から求人募集を引きはがすと、そこに書かれていた宿屋へと俺は向かうことにした。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は一軒の宿屋を見上げていた。


「モフモフ亭。……ここだな」


 チリンチリン~。


「お客様だべか~?いらっしゃいませだべ~」


 中に入ると、受付の奥から一匹の白い獣人が出てきた。


「何日泊まるだべか?」


「いや、宿泊に来たわけじゃないだ。ここに勇者パーティーが居るって事できたんだけど」


「あぁ~!シオンさんたちの事だべな?」


 ちょっと待ってだべな~っと言いながら獣人が受付を出ると、2階へと上がっていく。


 待つこと数分。


「え!?本当!?」


 ドンッ!ダッダッダッダ!


 2階が騒がしくなってきたな。


「あっ!本当に居た!」


 声がした方へ視線を向けると、階段の上から燃えるような紅髪と紅い眼を爛々に輝かせた美少女が俺を見下ろしていた。


「待ってて!今行くから!」


 ダダダダッ!


 騒々しく美少女は階段を下りてくると、俺の目の前。

 

「君が!加入希望者だよね!?」


 鼻と鼻がくっ付きそうな位まで、顔を寄せてくる。


 顔ちっかぁ~。


「そ、そうだけど」


 一歩下がる。


「もう何日も待ってて、諦めかけてたんだよ!」


 一歩進む。


「じゃあ、ギリギリセーフだったんだな」


 一歩下がる。


「これは運命だね!もう私たちと冒険するしかないよ!」


 一歩進む。


「そんな簡単に決めていいのか?」


 一歩下がる。


 ドンッ。


「シオン。何をしている」


 俺が壁際まで追い込んでいたシオンと呼ばれた少女は、エレオノーラという金髪碧眼の美女の言葉によって振り返った。


「あ!エレオノーラ!見て見て!仲間が増えたよ!」


「何!?」


 その言葉を聞いて、エレオノーラは颯爽と階段を下りてくる。


 ズンズンと俺の側まで歩み寄って来たエレオノーラは、ズズィと俺にその綺麗な顔を近づかせる。


 お前もかよ。


「覚悟はあるんだろうな?」


「覚悟?」


 え?何を覚悟するん?


「世界を背負う覚悟だ!」


 世界!?おっも!


「ちょちょちょ~と待ってよ!エレオノーラ!」


 グイっとシオンによって俺から離される。


「な、なにをする!シオン!」


「いきなり何言ってるのさ!」


「覚悟を聞いただけではないか!」


「その覚悟が重すぎるんだよ!いきなり世界なんて言われても困るじゃん!」


 俺の目の前で赤と金がお互いの争っている。


 なんとはなしに、その光景を眺めていると。


 クイクイッ。


 「ん?」


 服の裾を引かれ、そちらを見ると、銀髪で目元を隠した巨乳の修道服を来た少女が居た。


「仲間になるの?」


「一応、そのつもりでここまで来てはいるんだが」


「そう」


「おう」


「「…………」」


 だから、エレオノーラの威圧で何人も逃げちゃってるじゃない!


 何!?シオンの勘違い発言で何人の男冒険者を脱退させる羽目になったか覚えているのか!?


 そ、それは、知らないよぉ!私は普通にしてるつもりなの!


 エレオノーラだって、何人ボコボコにしたのさ!


 それはあいつらが悪い!私は悪くない!ここは出会いを求める場所ではない!


「なぁ」


「ん。なに」


「いつもこんな感じなのか?」


「ん。こんな感じ」


 修道服の少女と一緒に赤と金の争いしばらく眺めていた。


「あんたら、いつまでそう争っているつもりだよ」


 声がした方向に視線を向けると。


 階段の踊り場でローブを着た金髪のチャラ男が呆れたよう見下ろしていた。


「ねぇ!ノアス!聞いてよ!エレオノーラが!」


「何!?違うぞ!シオンが!」


「はいはい。いつもの事だろ。……で、そこで呆れたように見ている兄さんを放置していいのか?」

 

「あ、そうだった!」


 ノアスと呼ばれた男の言葉にシオンが改めて俺の方へと歩いて来る。


「変なところを見せてごめんね?」


「いや、いいけど」


「こほん。丁度良くパーティーメンバーが全員揃ったから、紹介するね!」


 はいはーい!こっち側に来て~っとシオンがメンバーを片側に固める。


「最後にもう一度確認するけど、パーティーに加入してくれることでいい?」


「おう」


 シオンは俺の確認が済むと笑顔になり、仲間の紹介を始めた。


「じゃあ、まず私からね!私はシオンって言うのよろしくね!そして、このパーティーの前衛で勇者やってます!」


 改めてシオンを見ると、腰まである燃えるような紅髪に紅眼で美少女と言っても過言じゃない容姿をしている。


 こりゃ、少し関わった感じだと人との距離が、近い感じがしたな。


 はい!次!とシオンが言うと隣に立っていたエレオノーラが胸を張る。


「次は私だな。名をエレオノーラと言う。パーティーではシオンと同じく前衛を務めている。そして騎士だ!」


 ふふん!と誇らしげに胸を張ったまま満足げな顔をしている彼女は、金髪碧眼の美人って感じだな。


 なによりも特徴的なのが、その長くて綺麗な髪を縦ロールにしていることか。


「次は俺だな。名前はノアス。パーティーじゃ後衛をやっている。まぁ魔法職だ。あまり男とは仲良くしたくないが、よろしくな」


 だるそうにアクビをしているこの男は、金髪で一般的な茶色い目の色をしているな。


 見た目と違って結構いいやつそうな気がする。


 俺の勘って結構あたるんだよ。


「ん。シエスタ。ヒーラー。よろしく」


 最後に修道服の少女が、自己紹介をしたけど、目元が銀髪で隠れているから表情が読めないな。


 それに、声にも抑揚がないから、一番謎の多い娘な気がする。

 

「うん!これが今の勇者パーティーのメンバーだよ!」


「そうか。そしたら、俺も自己紹介しないとな。名前はフレイ。味方にバフ、敵にデバフを掛けるのが得意だな。まぁ支援職だと思ってくれると助かる。」


「味方にもデバフかける?」


 シエスタが俺に近づいてくると、袖を引っ張りそんな事を言う。


「え、かけないよ?」


「かけないの?」


「うん。かけない」


「つまんない」


 そう言うと、宿屋のロビーに併設されている食堂へと歩いて行った。


「なんだったんだ」

 

 シエスタの後ろ姿を見送ると。


「シエスタ。少し変わってるでしょ?」


 シオンが隣に立つ。


「不思議な奴だなっては思ったな。……あれ?他の人たちは?」


 周囲を見ると、シオン以外誰も居なくなっていた。


「エレオノーラは一旦部屋に戻ったよ!ノアスは外出だね。たぶん、女の子と遊びに行ったんだよ思う」


「シオン含めて、このパーティーは美人しか居ないけど、それでも女の子と遊びに行くんだな」


「ぇえ?私が可愛い!?もう!フレイってば!」


 バシンッ!


「いてぇ!」


 シオンさん。恥ずかしいからって背中を思いっきり叩かないで……。


「あぁ!ごめんごめん!でも、いきなり変な事を言うフレイも悪いんだからね!」


 叩いた背中を優しくシオンが撫でてくれる。

 

「さっきの話だけど、ノアスって同じパーティーの女の子には興味ないんだって。なんか過去に1回別のパーティーに居た時、結構な面倒ごとになってから、仲間を狙うのは辞めたんだってさ」


「そうか、ある意味壮絶な人生を歩んでそうだな。」


「さっ!私たちもご飯食べに行こ?まだ食べてないでしょ?」


 シオンに手を引かれ俺も食堂へと向かうのだった。

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